「いよぉ゛!ザンザス!!」


久しぶりに見たスクアーロは今日も今日とて剣がどうとか俺がああだとか一々うざかった。
目を閉じておく。俺がヤツの話に相槌を打つことはない。コイツだけじゃねぇ。この世界の人間はどいつもこいつもくだらねぇ退屈な話ばかりだ。何とかのファミリーが裏切ったとかどこどこのヒットマンが殺されたとか聞き飽きた情報ばかり。相槌を打つ価値すらない。俺はボンゴレ九代目の息子。そんな情報はとっくに知り尽くしている。なのに連中ときたら俺に取り入りたいが為に我先にと情報を流してくる。ゴミ共ばかりの集まり。くだらねぇ。


「そういやぁバッヅーロの野郎が」
「聞き飽きた、カスが。」
「情報早ぇな。」


感心するような声に苛立ちよりも呆れが先に立った。顔を見ているのも面倒で窓の外をなんと無しに眺める。外は秋空も過ぎ去って更に面白くない季節へと移行していた。ぽつぽつとマフラーを巻いた生徒を見かけるから外は少しずつだが日に日に寒くなっているのだろう。不意に見慣れた後姿を見つけた。黒髪の上から白とオレンジと緑の線が入ったチェックのマフラーをぐるぐると巻きつけている。小柄な体と浮き足立った歩き方は間違いなくだ。
枯れた葉をぶら下げている木の周りをのろのろと歩き回っている。なにやってんだアイツ。じっと見ていたのがスクアーロにもわかったんだろう。俺が眺める窓を覗きこんであからさまに顔を歪めた。


「根暗で黄色い肌の東洋女じゃねーかぁ。」
「・・・・・。」
「表世界の女なんだろぉ、あいつ。しっかしこんな寒ィ日に木の下這いずり回って何やってんだぁ?バカみてぇ。まぁお似合いだがな。」


そう言ってスクアーロは何が面白いのか鼻で笑った。言葉の中に悪気だとか嫌悪だとかそんなものは少しも感じられない。日常で飛び交う会話の一部みたいだ。暴言を暴言と意識せずに簡単に吐き捨てるスクアーロに腹が立つ。しかし一方で自分も昔はコイツとなんら変わらず、平気での事を“黄色い肌の女”といっていた事に気付いて体が冷えた。誤魔化すようにに再び目を向ける。


「・・・・アイツの名前知ってるか?」
「あー?知るわけねぇって。興味ねーよ。」


何言ってんだ、とでも言いたげな視線を無視する。予想通りの返答だ。一寸も狂いがないほどの想像していた言葉通り。スクアーロはに興味がない。このクラスの連中は、この学校は誰一人としてに興味を持ち得ない。は“黄色い肌の女”と軽蔑されたり罵倒されていたが“”としては存在していなかった。“”なんて誰一人として知らない。俺以外は。


「・・・・って、おい!どこ行くんだよ?!」
。」
「はぁ゛?」
「アイツの名はだ。」
「?」
「今後アイツについて口出しするんじゃねーぞ。・・・アイツに傷でも付けたら、ボンゴレが黙ってねぇ。」


押し殺した声に教室はシンと静まり返り、俺はゆっくりと廊下に出た。途端に後ろでざわめきが起こる。そんなものどうでもいい。人気がなくなった階段を二段飛ばしで駆け降りる。くだらねぇ連中の卑しい推測やなんかクソくらえだ。それよりも早くに会いたかった。会って「何してんだよ」と声をかけたい。アイツの笑顔が無駄に輝くのを呆れた顔して間近で見ていたい。だってアイツは、


「勝者」と「カス」の二種類しかない俺の世界に、いとも簡単に「」と言う種類を強引に作りやがった奴だから。


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