「・・・骸さん、」 「あぁおかえりなさい。なんですか?」 「ただいま。・・・あの、こんな事言うのもアレですけど、」 「あなたの私物が明らかに増えてますよね。」 私の言葉に骸さんは今まで行っていた作業を一端止め、私をちらりと一瞥してから「・・・幻覚ですよ」と明らかな嘘をついてきた。お前の幻覚どんだけ融通効くんだよ。というか、幻覚で私物を生み出すって無駄すぎるよ。お前はうさぎか。寂しいと死んじゃうのか。 「いやいやいやいや、幻覚って都合よすぎるよ!うわ、ここにもある・・・。一体なんなんですか。着々とあなたのゾーンが増えつつありますよ。骸ゾーンですか。」 「手塚ゾーンみたいにいうのやめてくれます?」 「あなたなんぞ波動球で粉々になればいい。」 「そんな技じゃないはずですよ!テニス漫画でしょあれ!」 ***** 雲雀さんが初めてうちに来て以来、骸さんは仕事をするようになった。 こんな事言うとどっかのヒモかニートに思われるかもしれないが、とにかく骸さんが(雲雀さんから借りた)ノートパソコンを開いて、床に散らばっている資料と1日中睨めっこするようになったのは事実だ。今だって私の顔からすぐに視線を逸らし、目にも留まらぬ速さでキーボードを叩いている。しかし資料は減らない。そもそも資料の量が半端ないのだ。雲雀さんが持ってくるのだけれど、1回に持ってくる量が膨大だし、来る回数も多い。今日ついにリビングのソファの周りは資料の山でバリケードが張られるようになった。 「まだ何かあるんですか?生憎僕は忙しいので構えませんよ。冷蔵庫にあるケーキでも食べていなさい。」 「どんだけ子ども扱いするんですか!!」 「ではケーキはいらないと?」 「ケーキに罪はありません。食べますよ。」 「(これで大人扱いしろっていうのが間違っている・・・)」 なんか物言いたそうな目をされたけど無視して、キッチンの冷蔵庫を開ける。 ケーキボックスには美味しいと評判のケーキ店の名前が書かれてあった。軽い足取りでテーブルに持っていく。賞味期限の表示されたラベルを爪ではがして蓋を開ければキラキラと輝くケーキが入っていた。 「うひゃっ!これって1日20個限定のフルーツタルトじゃないでか!」 「午前中雲雀が持ってきたんですよ。」 「はぁ〜あの人も良いところあるんですねぇ。」 「・・・それ彼の前で言ったら死にますよ。」 「それくらいの空気読めますから。」 うきうきしながら戸棚にあるお洒落なお皿を取り出す。この皿は気に入っているのでケーキの時しか使わないようにしている。フォークも細身で先っぽに宝石型にカットされた赤いプラスチックの付いた可愛いものを選んだ。ふと骸さんがいることを思い出してお皿とフォークを2つずつ用意する。残念ながら紅茶は安物の葉しかない。ティーポットとティーカップを用意したところで骸さんが肩や首を回しながらふらふらとやってきた。 ***** 「それ、どうしたんですか?」 今日は学校で日独伊同盟が出てきたからジーナとヘタリアの話をしていたら教授にバレて大変だった、という話をしている時、骸さんが私の指を見て首をかしげた。いつもの事だけど彼は私の話をちゃんと聞いているんだろうか。初めは「そうですか。(棒読み)」とか「大変でしたね。(棒読み)」とかあったのに、最近相槌すらない。 「へ?」 「右手の小指。」 「あぁーこれですか。ジーナに付き合って帰りにデパートの化粧売り場寄ったんです。そしたら試供品?てゆーんですかね、なんか見本あったんで。良い色だと思いませんか?買わなかったけど。」 たまたま見ていた棚にあったローズピンクのマニキュアが綺麗で、小指にだけ付けてみたのだ。色合いは良い。けれど、いざ付けてみると私には少し大人っぽかったようだ。爪が浮きすぎて顔と全然釣り合わない。ジーナには「なんかお母さんの化粧使いましたって感じね」と爆笑された。何て女だ。でも私も同じように思ったのだから仕方がないんだろうけど。ただこれを素直に骸さんに言ったら馬鹿にされるのは目に見えているので、ちょっと見栄を張ったのだ。骸さんは私の顔と小指を交互に見てから、ふっと馬鹿にするように笑い「お母さんの化粧品を勝手に使った女の子って感じですね」と本日2回目の台詞を言う。 「そんな事ないですよ。今は小指しか塗られてないからそう思うだけで、全部塗ったら、ほら、いい感じに・・・」 「自分でも無理だなって事をいつまでも意地張るのはの悪い癖ですよ。さっさと認めてしまいなさい。似合わないって。」 「・・・・・骸さんだって似合わないくせに。」 「僕が似合ったら不味いでしょう・・・色々と。」 確かに骸さんが似合ったら気持ち悪い。 いや女装とかしたら滅茶苦茶美人さんになるだろうけど、今の状態でローズピンクのマニキュアは殺人兵器並みにパンチがある。もやもやと想像を膨らませる私に骸さんはげんなりした顔で「想像しなくていいから」とやけに冷たい声で言う。なんとなく気まずい空気が流れた。 「・・・はミルキーピンクがお似合いですよ。」 しばらく黙々とケーキを食べていると骸さんが突然そんな事を言った。 えーっと、これは勧めてるのかな。それとも「お前ごときは乳臭ぇピンクがお似合いだ!」と貶しているんだろうか。どっちとも取れるし、どちらかというと後者にとれる気がする。だから何か言ってやろうと骸さんを睨みつけたわけだが、意外な事に骸さんは嫌味な笑みとは程遠い、なんだかクロロが照れた時と同じように眉を顰めて目を泳がせ、薄っすら頬を赤くしていたので多分勧めたんだろうなぁ、と突っ込むことはやめておいた。それにしても骸さんがこんな顔出来たなんて思わなかった。 |
Workaholic
(仕事のし過ぎでおかしくなったのかもしれない)
n e x t