ポケットに手を突っ込んだまま高杉は室内を見渡した。
カツリ、革靴が砂利を踏んで滲むような音を出す。対戦後と言うだけあって到る所に生々しい痕があり、瓦礫と化した階段が多々見つかった。煙草を吐き捨てる。手は突っ込んだままだ。


「ポイ捨て禁止だ。」


高杉の目が緩慢に動く。瓦礫の上に金髪の男が座っている。獅子のような男だ。茶色の瞳がじっと高杉を見ていた。の事を訊くと男は先を顎でしゃくって見せる。高杉は黙ってソレに従った。後ろから彼が付いてくる気配がする。


「旅行中とは聞いてないぜ。」
「言ってねーもん。」
「ふざけるな。知ってたんだろ。あいつ等の事。いや、日本にいる事自体を随分前から知っていたはずだ。どうして処分しなかった。調律を保つのがお前達の」
「ディーノ」


静かな声だ。なのに背筋がぞくりとする。
彼の隻眼が凍て付くような暗さを含んでディーノを見た。全身の毛穴から汗が噴出す。


「言う事は三つだ。一つ、俺たちはもう“統治者”じゃねぇ。十四年前自らでその地位を捨てた。二つ、覇者はあくまで『一人』だ。『俺ら』は手足に過ぎない。治める事が出来る奴は銀時亡き今、その『後継者』のみ。」


其処で高杉は一息ついた。溜め息のようにもただの吐息のようにも聞こえる。崩れかけた階段を登る。比較的暗いその場所は彼の黒髪を一層暗く染めた。


「三つ、継ぐか継がないかは後継者自身が決める。だが、アイツは今ソレを決めかねている。」
「決めるも何ももう決まってる事だろ?は世界に立」
「アイツは教師になるのが夢なんだ。叶えさせてやりてェ。」
「・・・馬鹿な事を。」
「そう言い切れるか?ディーノ、此処は平和だ。銃声じゃなく鳥の声で目覚め、腐臭のしない空気を吸う。隣人を疑う事もなけりゃァ血に染まった視界を見る事もねェ。アイツは此処でよく笑うよ。この世界なら幸せでいられる。」


平気で動物の死骸を踏みつけて歩く彼がその時ばかりは感傷的な笑みを洩らした。
もうすぐ大きな扉に着く。さっき復讐者が六道たちを連れて行った扉だ。戦闘があった場所。高杉が振り向いた。


「俺は裏世界にアイツが行って泣くのが心配なわけじゃねェ。裏切りや死に慣れ過ぎて、泣く事も出来ない人形みたいになっちまうのが心配なのさ。アイツは優しい奴だ。きっとお前や六道みてェなろくでもない奴が手を汚すのを見てられねェで自分で自分の感情を殺しちまう。
・・・あの世界にアイツの幸せはねーんだよ。」

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