扉を開ければみんな歓迎してくれた。無表情な顔を少しだけ緩めてくれたり手を上げて喜んでくれたり。その一番後ろで色違いの瞳が優しく笑んでくれた。




半ば抉じ開ける様な乱暴さで扉を開ける。だだっ広い部屋の真ん中に見慣れた後姿を見つけた。足元には誰かの血痕が赤黒く残っている。風に乗って漂う血の臭いに高杉は眉を顰めた。踏み出すと床が軋んだ。ガラリと空いた部屋には瓦礫や硝子が散らばっている。


「雲雀さん、は?」
「病院だ。命に別状はない。ボンゴレ達もな。」
「・・・・そう」


の声音は幾分ほっとした雰囲気だったが纏う空気は未だ硬い。斜め後ろのディーノが息を呑むのがわかった。彼の一からは彼女の顔がはっきり見える。柔らかい赤褐色の瞳が彼の見たことも無い色をして血痕を見ていた。あまりに澄み切った瞳に鋭さすら感じてしまう。


「最初は、」


落ち着いた声に転がるように走ってきた時の必死さが嘘のようだ。斜め前の高杉が呻く。険しい顔付きだった。


「嘘だと思った。土方さんがそんな冗談言うわけないのに。それでも嘘だと思いたかった。此処に来て全部わかったよ。旅行に行くって言った時の骸さんの安心した顔も土産はいらないって言った意味も。」


(どっちに転んだとしてもいなくなるつもりだったんでしょ、骸さん)
後に残った彼女達が普通の暮らしを出来るように。もし此処に留まれば世界中のマフィアが骸たちを殺そうと日本に集まってくるだろう。当然今までひっそりと暮らしてきた彼女の生活は壊される。海外に逃げる事で日本で生きる後継者の存在を隠そうとしたのだ。呻く声がの唇から零れる。そんな優しさいらなかった。


「あの生活をいつ失うかずっと不安だった。此処にきたときもお願いだから間に合ってって思った。こんな一瞬でなくなるものだったなんて思わなかった。」


残った血痕を見つめる。マフィアになると言う彼等とソレを叩き潰すと言う彼等の両方と友達になることは間違った事だったのだろうか。息を短く吸う。そんな事ない。例え世界中の人が間違いだと言ったって私は。目の色が強くなる。


「助けたい。」
「夢を、今までの生活を捨てる事になるぞ?」
「それでも」


少し口元を緩めた彼女が振り向く。対する高杉は複雑そうな表情のままだ。


「・・・いいのか、それで。」
「うん、」
「人を殺す世界だ。」
「知ってる。」
「六道はそれを望んじゃいねェ。わかってんだろ?」


その問いに彼女は答えなかった。静かに微笑むだけ。ディーノはただ二人を見ていた。確かに彼女が後継者の道を選べば両方を守る事が出来る。ツナたちを狙う非合理な組織からも死刑の延長も。しかし、それで?それでどうなる。彼女は。甘ったれで優しい彼女は?一生を血生臭い世界に繋がれて生きるのか?教師になりたいのだと高杉は言っていた。胸がちくりと痛む。世界に立つべき当然の存在と思っていた。世界が狂愛して止まない後継者。今更になってソレがどんなに酷な事かわかった。唇が震える。・・・そんな取るに足らねェ事でお前は人生棒に振るのか?ディーノの掠れた低い声にが目を細める。


「明日死ぬだろう人が掛け替えのない人だとして、自分の人生を引き換えに助かるなら、ディーノさん。貴方だって同じ事をするでしょう?」


最後の日の光に黒髪が白く反射した。光りの加減で赤い瞳。不敵に微笑む銀髪の男の面影が走った。


死 に 行 く な 、 少 年 た ち