六道骸さま 初めてお手紙差し上げます。お元気でしょうか。私は其れなりに元気です。最近こっちはいっそう秋が深まってまいりました。骸さんと見たイチョウはもうすっかり黄色に変わって綺麗です。その中の一枚を同封させていただきました。気にってくれると嬉しいです。 それではまた、手紙を書きます。 敬具 二〇〇五年一〇月一六日志村 |
六道骸さま 拝啓 冬が駆け足で近づいてまいりました今日この頃ですが如何お過ごしでしょうか。私は朝顔を洗うのが辛くなってきました。息も白くなる日が多いです。それなのにお父さんは寒風摩擦を止めません。そのうち風邪引いて山ちゃんに看病されると思います。骸さんは風邪を引かないように気をつけて下さいね。 それではまた、手紙を書きます。 かしこ 二〇〇五年一一月一六日志村 |
六道骸さま 拝呈 年もおしせまり、何かと忙しい頃となりました。お元気ですか。今日遅刻をしたら雲雀さんにトンファーで滅多打ちにされそうになり逃げたら平手打ちされました。意外と痛いです。もうすぐクリスマスですね。並盛町も黒曜町もクリスマス一色です。プレゼントと言ってはなんですがマフラーを作りました。イタリアは地中海性気候だから暖かいと雲雀さんは言っていましたが寒いかもしれないので寒かったら巻いて下さい。見てくれは悪いですが機能性はあると思うので。 それではまた、手紙を書きます。 拝具 二〇〇五年一二月一六日志村 |
彼女からの手紙は毎月三十日にやってきた。骸のいる特別な刑務所はイタリアにあるが一日のずれもなく絶対三十日に届くのだ。最初怪しんでいた看守たちも手紙の内容や入っている贈り物が一般的で平凡なものとわかったらしく今では一応点検はするもののすぐに骸に渡してくれる。中にはその手紙を読むのが楽しみとなっている看守もいるようだ。 簡素なベッド以外何もない独房で山積みになった手紙の中から最も古い手紙を二、三枚取り出し目を通すと骸は顔を緩める。おぼつかない右上がりな字。幼さの残る顔を頭に浮かんだ。と、山から落ちた手紙が目に留まった。拾い上げるとさっきの手紙よりも整った字で彼の名前が丁寧に書かれている。 |
六道骸さま 敬白 空の青さが夏らしく輝きを増してきました所、謹んで申し上げます。この度アメリカの大学に合格いたしました。九月からピカピカの一年生です。私だけでは心配と言うので高杉さんと陸奥さんが一緒に来てくれることになり、色々不安ですが頑張っていこうと思います。お父さんや他のみんなは準備があるとかでイタリアに行くらしいです。日本を離れるのは初めてですごい寂しいです。 それではまた、手紙を書きます。 敬具 二〇〇九年八月一六日志村 |
骸たちがマフィアを壊滅させようと企んでからもう九年の歳月が流れる。そして復讐者たちのよって刑務所行きが決まったのもそれからが手紙を出すようになったのも九年経った。犬と千種はわからない。きっとこの刑務所のどこかに(彼等も独房だろう)いる。それしか骸はわからなかったし、それ以上の情報をくれる者はいなかった。そして一度脱走した彼等に看守は厳重に目を光らせ今のところ脱走は難しい。そうでなくとも一日中独房で壁からは呻き声しか聞こえない場所にいてはそんな気も失せていく。元々生きる事に執着していない骸は自分を殺す事も出来たが、今でも途切れる事無く毎月三十日には届く手紙の存在が彼の生死を繋ぎとめていた。(彼がに手紙を出した事は一度もない)(看守に進められても断った)(自分が死んだことにした方が彼女の為にもいいだろうし)(結局手紙は途切れず届く) 毎日毎日溜まった手紙を読み、貰った贈り物を撫でる。最初の年に貰ったマフラーはすでに汚れてしまったがそのまま枕元に置いてある。 |
六道骸さま 啓白 立秋とはいえ、まだまだ暑い日が続きます。そちらはどうでしょうか。私はこの前大学を卒業しました。四年はあっという間です。色んな事があったけど振り返ればみんな良い思い出です。そうそう雲雀さん(覚えていますか?)はボンゴレに入ったと聞きました。噂では相変わらずの我が侭っぷりを発揮しているようですよ。骸さんは変わりましたか。それとも私の知っている骸さんのままでしょうか。骸さんは私がいくら待っても手紙を返してくれませんから全然わかりません。復讐者の方々は手紙は届けてくれるのにそちらの情報を教えてはくれないのでもしかしたら届いていないのでしょうか。 骸さん、風邪は引いていませんか。そこからイチョウは見えますか。イタリアは本当に地中海性気候で暖かいんですか。骸さん、骸さん。 会いたいです。 敬具 二〇一三年八月一六日志村 |
何かで滲んだ最後の文字を指先でなぞる。格子窓に見える月が淡々と骸を照らす。看守のつけたラジオが十月一日午前零時を告げた。 九月三十日に手紙は来なかった。 >> |