さっきから看守は珍しく軽口を叩かずに前を進む。骸の両側と後ろを進む看守も無口だった。首輪から手錠へと伸びる鎖が歩く度にカチカチと耳障りな音を立てた。朝起きて早々付いて来いと言われ、目隠しをされた。そして次に看守は首に革製の首輪と同じく皮の手錠(そしてその上に鉄で出来た手錠を重ねた)を手に掛け、最後に足枷を嵌める。行き先は死刑場かはたまた新しい独房か。牢に残してきた手紙と贈り物を思う。処分されるのだろうか。それなら持って来れば良かった。一枚でも多く。だってもう手紙は届かない。


「止れ。」


制止の声に立ち止まる。どうやら着いたらしい。前を歩いていた看守がノックする。どうぞ、と言う声は聞こえなかったが看守は戸を開けた。肌が眩しさを感じる。アイマスクのせいでよくわからないが此処は間違いなく死刑場でも別の独房でもない。優しい風が吹き、カーテンのはためく音。皮のソファの匂いがする。――客室だ。


「780542をお連れ致しました。」
「ご苦労様です。」


落ち着いたその声に初めて人が居る事を知った。気配がない。空気も呼吸の律動も触れていない。そんな芸当が出来るのは骸が見てきた中でアルコバレーノと坂田銀時くらいだった。看守の手が頬に触れる。がさがさで無骨な手だ。その手がアイマスクを引きずり降ろす。眩しさに骸は眉を顰めて、それから見開いた。


「久しぶりです、骸さん。」


志村がそこに居た。


>>