空はパレットの上の青色のように綺麗で。はデイダラの鳥に乗ってソレをぽかんと見上げていた。後ろではデイダラがを自分の足の間に入れ、落ちないように腰に手を回している。晴天の空がいつもより近く見えた。 「やっぱ里まで行くならコレだな、うん。」 もっと上を向くと満足気に笑っているデイダラがいた。榛色の髪が風に煽れて空色に映える。 「綺麗ですね。」 本当に綺麗だから素直に声に出すと彼は少し驚いたようだ。それからたまらないと言った様子で破顔した。鳥は穏やかに飛んでいく。里はもう、すぐそこだ。 「いいかい、オイラはここで待ってるから気を付けて行ってくるんだぞ?」 「はい!」 里の外れにある団子屋に着くとデイダラがの髪を撫でて言った。どきどきする胸を抑えては頷く。町に一人で行くのは不安だ。まだ暁のメンバー以外の人は怖い。でも興味はある。任務から帰ってくる彼らがたまに買って来るお土産にはの見たことのない物が多かった。自分の知らない国の知らない物。今度は自分の目で見てみたいと思う。もっと世界を見なくては。 の心中を知ってかデイダラが彼女の頭から手を離して掌に何かを握らせる。それは数枚の硬貨だった。 「コレで好きなものでも買えよ、うん。」 「でも、」 「いいからいいから。遠慮すんな。」 にっこりと笑んだ彼を見上げては一回瞬きすると照れくさそうに笑った。そして首にかけた財布に大切に仕舞い込み、ぺこりと頭を下げて駆け出していく。デイダラはと言うと初めて笑いかけられたことに驚いて数分固まっていた。 「わぁ・・・・。」 左右に広がる店。言わば商店街と言われるソコには感嘆の息を漏らす。きょろきょろと目を泳がせば当店に並ぶ見たことも無い物。の好奇心を擽るには充分な代物だ。誘われるようにしてふらりと足を進める。 急にどん、と何かにぶつかった。 「っ・・・!」 「おっと、」 後ろに倒れる感覚には無意識に目を瞑ったが衝撃は一向に来ない。そおっと目を開けると片目を額当で隠して鼻までマスクをしたいかにも怪しい男の顔。 一瞬で楽しい気分が萎み、血の気が引いた。知らない人。殺されるかもしれない。逃げなきゃ。しかし、の腕は未だ男が掴んでいる。どうしようもない恐怖にショルダーのベルトを掴む。男がニコリと笑った。 「大丈夫?」 「・・・・え?」 てっきり殺されるかと思った。ぽかんと男の顔を見つめる。 「ごめんねー、急いでたんだ。」 支えてくれていた腕を放してを立たせるとそのまま彼女の髪を撫でる男。数秒後この男が自分を助けてくれた事を理解して慌てて頭を下げた。 「・・・ごめんなさい。」 「俺のほうこそごめんね。怪我とかしなかった?」 首を振ると彼は そっか、とまた笑う。よく笑う人だと思った。もう一回お礼を小さく呟いて立ち去ろうとすると再び声を掛けられた。振り向いた先にはニコニコした彼の顔。 「これ落ちたよ。」 彼の手には見覚えのある小さな紙切れ。あ、と声を上げてがバッグを開ける。やはり大事なものが無くなっていた。ポケットの中も見たがない。 「あの、それ・・・」 「大丈夫、取ったりしないから。」 心の中の不安を見透かされての顔が真っ赤になる。 はい、と気分を害した様子もなく笑顔で渡すその人。謝らなければ。そう思うのにうまく口が開かない。 「買物しに来たの?」 男の問いにとうとうはタイミングを外してしまった。一つ首を上下させると まだ小さいのに大変だね。と微笑む。 「お店わかる?」 わかるも何もこの隠れ里に行くのも初めてだしそもそも拾われて数週間立つが町まで外出するのさえ初めてだ。曖昧な表情しか出来ないのも当然の事。 「わからないの?じゃあ俺も一緒に手伝ってあげる。」 「っ!!」 「二人で探せば少しの時間で済むでしょ?」 「でも、」 鬼鮫が言っていた事が脳裏を過ぎった。知らない人には付いて行ってはダメですよ。ぎゅっと鞄を掴む。目の前の人はよく笑う人で優しい。でも、本当に優しいかなんてまだ会ってまもないがわかるはずがない。それを彼女はよく自覚している。優しい笑みで穏やかな声で自分を殺そうとした人をはたくさん知っていた。 「どうしたの?」 眠そうな目で問われて咄嗟に視線を下げる。泳ぐ目。まだ足りない脳をフルに回転させても答えは見つからない。 「俺のこと怖い?」 びくりとあからさまに。の肩が揺れた。 血の引いた顔のまま男を見る。彼は少し考えた顔。それから笑う。 「そっか、しょうがないよね。」 「ご、めんなさっ・・・」 「ううん。知らない人に声を掛けられたら警戒するのは当たり前だよ。」 ぽんぽんと頭を撫でられては硬く目を瞑った。恥ずかしいと思った。疑う事しか脳がない自分がとても下らない人間に思えたのだ。 「でもコレだけは約束。今回俺は絶対キミを傷つけない。」 ホントだよ?とおどけて彼は頭に乗せていた手をどける。 「だからね、もしキミが俺を信用しても良いかなって思うなら頷いて?」 優しい人だ。優しい人だと、思う。すごく嬉しかったが同時にやはり自分が恥ずかしかった。くだらない、くだらない人間。 この時疑うところは沢山あったが其れを疑ったら間違いなく自分は最低な人間のように思えて仕方がなかった。ぎゅっと手を握り、小さく頷く。 そして恐る恐る瞳を開くとその人は嬉しそうな顔をしていた。 「じゃぁ、行こっか。」 自分の手をの小さな手に絡めてゆっくりとに合わせて歩く。 |