「コレで最後だね。」


カカシがはい、と黒いマネキュアをに渡す。は多少強張った顔だが笑って受け取った。


「ありがとう、御座います。」


口から自然と出た言葉。自分でもびっくりしたが、目の前の男はもっと驚いたようだ。眠たそうな目が大きく見開く。ちょっと気恥ずかしくなって俯くと上から笑った気配がして、それから繋いだ手を少しだけ強くされた。


「どういたしまして。」


カカシが言う。その言葉は照れくさかったが悪い気はしなかった。
二人で元来た道を歩く。人通りはさっきと変わらないがいき行く人の顔は違う。当然の事なのだが、なんとなく不思議な気分だ。でも、とは心で呟く。
隣を歩くこの人のほうがずっと不思議だ。
デイダラさんのようによく笑ってサソリさんのように落ち着いている。イタチさんに似て思慮深いのに鬼鮫さんのように優しい。そんな人だ。もしかしたら自分が思うより人間は悪い人ばかりではないのかもしれない。店の人は親切の人ばかりだったし、彼に声を掛ける人はどの人も穏やかな顔をしていた。


お前はもっと世界を見ろよ。
そういって頭を撫でたあの人の言葉を思い出す。その時は彼が何でそんな事を言うのかわからなくて拒絶された気がして サソリさん達がいればそれでいい、と叫んだ。だけど、今ならわかる気がする。そういうことを言ってたんじゃないんだ。彼は。もっと別の、ずっと先のことを言っていたんだ。
同じ歩調で歩くカカシの足が止まる。不思議に思ってが顔を上げると彼はニコリと笑って握っていた手を離した。そして彼女と視線を同じにするようにしゃがみ込む。


「この先を行くと団子屋に着くから。」
「!・・・・知って、たんですか?」


自分が暁の子だと。
カカシは困ったような顔をして頷いた。


「でも約束だからね。」


今回はキミを傷付けない。確かに彼はそう言っていた。
ぐっと胸が熱くなる。全部知っていたんだ。知っていて、何も知らない振りして買物に付き合ってくれて、でも約束だから自分をこうして帰してくれている。涙が出そうになった。こういう人が居るんだ。


「あの、」
「ん?」
「ありがとう御座いました。」
「お礼なんて言われて良い人間じゃないんだけど、俺は。」


苦笑してカカシが頭を掻く。
こうして今まで知らない振りして騙していたのだから。罵倒されても良いくらいなのだ、自分なんて。


「約束、守ってくれた。」
「・・・・最初から守ろうとは思っていなかったよ?」
「でも、あの、・・・私ね、暁の人以外、約束守ってくれる人、見た事なかったの。」


ぽつりとが言う。敬語は。こんなときどう使って良いかわからなくなる。だからため口のようになってしまうけど、それでも相手に伝えたかった。


「何もしないよって言って殺そうとした人、沢山いる、から。」


今日カカシさんが約束守ってくれて嬉しかった・・・の。


「だからね、ありがとう。」


はにかむようにが笑う。
カカシはすごく驚いた顔をしてそれから泣きそうな目で笑った。












あの後、団子屋に戻るとデイダラがつならなそうに茶を飲んでいた。おずおずとが声を掛けるとまるで花が咲いたようにぱぁっと笑顔になって おかえり!と叫ぶ。
いつもは自分が彼らに言う言葉のはずだ。少し変な感じがする。でも新鮮に嬉しかったから ただいまと笑った。




「結構遅かったですね。」


アジトについて一番最初にかれられた言葉がこれだ。はきょとんとデイダラは眉を寄せて仁王立ちしている鬼鮫を見る。


「なんだよ、早い方だろ、うん。」
「(無視)そころで。」
「はい?」


「知らない人には着いて行ってはいけないと言ったでしょう?今回の人はまぁ、害はなかったようですけど、いつも害がない人とは限りませんからね。」


少し顔を険しくさせる鬼鮫。心配、してくれたんだ。思ってははい、と頷く。わかればいいんですよと鬼鮫は頭を撫でた。へへ、とが笑う。今日は嬉しい事ばかりだ。









*おまけ


「ところで何でが知らない人に着いてったってわかったんだ、うん?」


サソリの隣でうつらうつらしているを眺めてデイダラが鬼鮫にこっそり聞く。鬼鮫はものすごく当たり前の事を聞かれた親のような顔で、


「まさか本当に一人で行かせたと思ってるんですか、貴方は。着いていったに決まってるじゃないですか。」


そんなのずりー!オイラも着いていきたかった!!などと騒ぐデイダラとそんな彼を うるさそうな目で見る鬼鮫をよそにサソリは静かに茶を飲む。しかし、の鞄にはサソリが造った小型の隠密傀儡がこっそり入っている。勿論それを入れたのはサソリだ。