「俺はいつかこうなると思ってたよ。」 人の顔見て第一声がソレか。 目の前の似非爽やか金髪青年を睨み付けると、彼は澄ました顔で俺が入れたコーヒーを飲み、飲んだ瞬間噴出した。喉を抑えてげほげほと咳をしている。いい気味だ。ふん、と鼻で笑うと復活したシャルが「だ、団長、豆挽かなかったでしょ!!」とかよくわからない事を言ってきた。首を傾げると、シャルの隣に座ったパクがため息をついて「私が淹れるわ」とが使うコーヒーメーカーを手馴れたように使い始める。女とは、家電も巧みに使える生物らしい。感心を込めたため息をつくと視界の端でシャルがげっそりした顔で俺を見ていたので、無視しておいた。俺が初めて淹れたコーヒーを噴くなんて失礼なヤツは無視されて当然である。まぁ、俺だったら絶対飲まないようなコーヒーだったが。 数分して馴染み深いコーヒーの匂いが漂ってきた。 パクが3人分のコーヒーを入れて1つを俺に、もう1つをシャルに、最後の1つは自分のところに置いて座り、「少しは、家事くらいしたらどうなの?」と呆れた顔で俺に言う。確かに部屋の中は強盗でも入ったかのような酷い有様だ。しかし、それもこれもがいないからだ。がいたら新しいシャツを長時間探さなくても良かったし、ハサミが何処にあるかわからなくて適当に即席料理の袋を破って、冷凍の食品をばら撒かなくて良かった。いや、こんなにやる気がなくなる事なんてなかった。そう言うとパクは「を何だと思っているの!!」と目尻を吊り上げた。恐ろしい。 「なにって・・・・・持ち物だろ。俺の。」 言い切る前にパクから殺気を感じ、ソファに避難する。ソファの背もたれの部分からこっそり伺うとシャルが引き攣った顔でパクを宥めていた。そのときのパクの顔は、美人で知的なイメージを覆すほど恐ろしい顔で、ジャポンの般若を思わす。女とは本当に恐ろしい。 「そんな怖い顔をするな、パク。」 「っ・・・・、誰の所為だと思っているの!!」 俺なのか?という顔をしてシャルを見たら無視され、その横で殺気が膨れ上がった。 さっとソファに隠れる。彼女の殺気はこのソファすら焦がしてしまいそうだ。シャルが慌てて間に入り、パクをさっきよりも丁寧に宥めていた。ソレを聞きながらローテーブルの上にあるタバコを掴む。ライターは3年前がくれたものだ。「貰ったものですが、私は使わないから。クロロ入りますか?」とシルバーのライターを貰った。他にもはいろんなものを貰ってくる。誰から貰ってくるんだと聞くと「世の中には親切な人がいるんですよ」とかわされたのは記憶に新しい。 「。」 、。 名前を連呼してみる。ソファの向こう側でシャルとパクが絶句した。 どうでもいい。全てが面倒だ。ごろりと寝転がって目を閉じる。 「それなら一緒に拾ってください。」 小さなが言った。大きな赤褐色の双眸でじっと俺を見ている。 あぁ、夢だ。初めて会ったときの遠い記憶。小さなが俺のシャツの端を掴んだ。片方の腕には、赤と青の2対の宝石が嵌め込まれた髑髏を抱えている。“彼岸の結晶”だ。世界七大美色と謳われるソレをが何故持っていたのか。聞こうと思っていて忘れていた。猫っ毛の髪を撫でてやる。小さなは、じっと俺を見ていた。周りには誰もいない。流星街のゴミの中で小さなは1人で髑髏を抱えていた。不思議の思って聞いた気がする。何と聞いたんだっけ。は何と答えたっけ。 「壊れちゃったんです。ガラガラって。」 小さながそう言ったので、「育て親は何処だ」と聞いたのを思い出した。 そして「それをくれないか?」と持ちかけたのだ。奪うことは簡単だった。は小さく、念の存在も知らなかった。しかしそうしなかったのは、彼女が持っている“彼岸の結晶”が恨みを持ったまま死んだ男の頭蓋骨といわく付だったからだ。下手に奪って彼女が俺を恨んだ場合、相乗効果で禍が振りかかる能性が充分にある。それで頼むような形で聞いたのだ。 小さなが俺を見上げている。その口が動いた。 「欲しいのならあげます。だから、私も一緒に拾ってください。」 気が付いたら辺りは夕闇に包まれていた。 体を起こすとタオルケットが落ちた。たぶんパクがかけてくれたのだろう。ローテーブルには“また来る”とシャルの字で書かれた置手紙が置いてある。寝てる俺に気を遣ったのだろう。普段なら人が出て行く気配に気付けるのに、最近睡眠不足が続いた所為か気が付かなかった。伸びをしてタバコを1本咥える。適当にテレビをつけると恋愛ドラマがやっていた。 「信じるのは苦手です。」 たまたまつけた恋愛ドラマを見て、がそういったのを思い出す。 何故なのか訊いてみると彼女は、「だって叶わない事を夢見るなんて恐ろしいじゃないですか。信じた先が嘘だったら嫌ですもん。」と口を尖らせた。子供らしい仕草に笑いながらも、内心首をかしげる。は信じるのが苦手だと言うくせに、俺が女の所に出かけても、俺のつく嘘を信じて「お帰りなさい。仕事は上手くいきましたか?」と待っていてくれるし、俺がふざけて言った言葉を信じて真に受けたりする。それなのに信じる事が苦手とは、どういう事なのだろうか。顔に出したつもりはないのに、俺を見てが小さく笑った。 「だから、騙されるんです。騙されれば何もわからない。」 眉を寄せた本当に不器用できこちない笑み。 その綺麗とは言えない笑みが愛おしく、笑う度に舞う蝶が悲しかった。 記憶の中でが笑う。 に会いたい。 あの不器用な笑みがとても愛おしい。 でも、もう見れないというならば、 それならいっその事全てなかったことにしてしまおう。 |
騙してください信じるのは下手なんです
(追いかけた先が絶望になるものなんか、入らない。・・・俺も信じるのは苦手なんだ)
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