ボスに子供が出来た。 といってもボスは男だから孕んだりはしないし、セックスする相手はいくらでもいても種付けするほどの価値を見出せる女はいなかったみたいだから、子供が出来たというのはボスにとっては不本意だったに違いない。その証拠にボスはあからさまに目の前にいる子供を睨みつけていた。 「、今日から君のパパになる人だよ。挨拶しなさい。」 “パパ”という部分でボスは凄い顔をしたが、九代目である目の前のじーさんは無視だ。 隣にいるちっこい子供に虫唾が走るような甘ったるい声をかけている。と呼ばれた子供はじーさんを見て、それからボスを見た。黒髪に黒い目、名前からして恐らくジャポネーゼだろう。子供はじっとボスを見上げていた。無表情というわけじゃないが、愛嬌というものが感じられない。俺の隣でルッスーリアがおろおろしている。コイツはオカマのクセに子供が好きだ。街で無邪気に遊ぶ子供を見かければ「可愛いわねぇ」と呟き、気持ち悪い笑顔を浮かべる。だから目の前の子供がボスに殺されるんじゃないかと心配なのだ。いくらボスでも子供相手に手は挙げないだろうと思い横目でルッスーリアを睨みつけるが、じーさん絡みならやりかねないと思い直し俺はそのままボスの後姿とその先にいる子供を見つめた。 「初めまして、」 の小さな口からは流暢なイタリア語が飛び出した。 もともとイタリアに住んでいたのかもしれない。そういえばが以前どこにいたのか、俺達は何も知らされていなかった。今日突然じーさんとその側近達がヴァリアー邸にやってきて「お前の養女となる子供を連れてきた」ととんでもない事を言い出し、現在の状況になっている。多分ボスは知っていたのだろう。嫌そうな顔はしていても驚いた雰囲気はなかった。すっげぇ嫌な顔はしているけど。大人の間に漂う空気を感じ取ってかは、後に続く言葉を悩んでいるようだった。“パパ”というには場違いで、ボスを名前呼びするのも危険であると感じたらしい。しばらくしてから「と言います。」と無難な言葉を繋げ、それっきり口を閉ざした。 「おいジジィ、・・・・俺は養子をもらうとは一言もいってねぇ。」 「これは命令だよ、ザンザス。この子を立派なレディに育てるんだ。」 じーさんの声はボスのソレよりずっと強い声だった。 平和ボケした顔が一瞬でマフィアのドンの顔になる。リング争奪戦から2年が過ぎた。俺達の反乱は公にされ、隊員もかなりの人数を減らされた。主犯である俺達幹部はボスを含め厳重に処罰されたが、部隊自体をクビにならなかっただけマシだろう。まぁ、2年経てばそろそろあちらさんの溜飲も下がってくる頃だ。そう思っていたのに、とんだ爆弾を投下してくれたものだと思う。案の定ボスは殺気立ったものの否定の言葉は口にしなかった。肯定もしなかったが。 「それじゃぁ、頼んだよ。」 じーさんはの頭を一撫ですると側近達と共に帰っていった。 ***** 「とりあえずちゃん、あたしと一緒にケーキ食べましょう。」 じーさん達がいなくなって早々ボスは自分の部屋に引っ込んだ。 ガキのことなんぞ知るか、という雰囲気が背中からも漂っている。ソレに対しては何も言わず、あの愛嬌のない顔のままボスを見送っていた。ルッスーリアがの手を引く。あんなデカい男が腰ほどにしかない子供の手を掴んでいる光景は何となく異常で変態的だ。隣にいたはずのスクアーロはもういない。レヴィはボスについて行った。マーモンもその属性の通り霧のように消え、ここにいるのはとルッスーリアと逃げ遅れた俺だけだ。 「ベルちゃんも食べるでしょう?」 手を引くルッスーリアは俺を振り返り、にっこりと微笑む。 同じようにが俺を見上げた。黒目がちのどんぐりみたいな目がじっと見る。愛想のないガキ。コイツを一緒にケーキを食べるのは気に食わない。でも王子である俺が何でコイツに気を遣わなきゃいけないんだと思い直し、「食べるに決まってんだろオカマ」とルッスーリアのケツを蹴り上げた。気色悪い声が上がったが無視。の視線は未だに俺に向けられていたけれど、知らないふりしてさっさと椅子に座った。 夕方に近いティータイム。 そのとき確かに俺はとケーキを食べたけど、はルッスーリアとしか話さなかったし、俺は2人とは少し離れた場所でケーキを食っていたから、結局俺とは一言も話さなかった。目すらあわせなかった筈だ。 なのにその日の夜、俺は何故かのお守を任される事になった。 >> |