結局家に帰ってからも何もやる気になれなくて、ソファに寝転んでいた。
ハルは私の周りをウロウロして、今は飽きたのかこのソファと同じ色のアームチェアで丸くなって寝ている。寝返りを打ったらぐぅ、とお腹が鳴った。そういえば昼食を食べていない。薄汚れた時計の針は午後4時を指している。もう昼ですらない。流石に朝も昼も食べないのは耐えられなくて、重い腰を上げる。夕食は豪華にしよう。


丁度冷蔵庫にいくつかの野菜と鶏肉があったから、トマトとツナのパスタと鶏のから揚げを作ることにした。ちなみにツナ缶とパスタはイタリア産だ。この間会った仕事の取引相手に「うぉお゛い!おまえンとこは何であんなに飯が不味いんだぁぁ゛?此れでも食っとけぇぇ!!」と貰ったもの。失礼だ。まぁイタリアのご飯は確かに美味しかったけど。
私たちは別に『L』のサポートだけが仕事じゃない。独自で探偵まがいなことをしてお金を貰っているし、時には情報を売って稼いでいる。それなりに儲かるしお金で困ることは無い。ただうちは3人で行った仕事は貯金と生活費に注ぎ込まれ、自分のために使うものは自分で稼がないと何も買えないようになっている。メロもマットもそれぞれ自分の得意分野で小遣いを稼いでいるからリッチだ。マットなんかゲームソフト大人買いするし。私も一応コンピュータ系で仕事はしているけど微々たるもの。3人の中で事務方の私は、とにかく人脈を繋ぎとめなきゃいけない。そのため取引先の仕事はほぼ無料で行っている。もちろん代償として情報や戦力を優先的に与えてもらえるようになっているけど、割に合わない事だってある。パスタをくれた取引相手は、家のコンピュータの強化とコンピュータ内に進入したハッカーの個人情報が全てわかる追跡機能を付けろと言う七面倒臭い依頼を以前してきた。個人の家ならまだいい。偉そうな態度のこの銀髪の男、イタリアンマフィアの暗殺部隊の幹部である。家と言うのはつまり、暗殺部隊の本部を意味している。コンピュータの数だって半端ないし、実際にマフィア宅に行かなければならない。しかも暗殺部隊だけあって幹部はみんなイカレた殺人マニアで、1番年の近い金髪の青年には最初ナイフを突きつけられた。後ほど和解というか「お前の人生俺が貰ってやるよ」と一生俺の奴隷宣言を頂き、良好(と取って良いのかわからないが)な関係を築く事ができたけど、2度とあの屋敷には行きたくない。


料理前に外の洗濯物を全て取り込んでおいた。夏のマジックアワーが綺麗でハルと一緒にしばらく見惚れた後、大量の洗濯物を畳む。自分の洗濯物はタンスに入れて、メロとマットの洗濯物は2段ベッドの上の段に置いとくと、毛布からどちらのか判らない文庫サイズの小説を本が出てきて、何と無しに読んでたら止まらなくなってしまった。結局非難するハルの声に、気付いたら時計は6時になっていた。今日1日を無駄に過ごしてしまった気になる。


6時には食べようと思っていたのに、だらだらしていて料理が出来たのは7時だった。
皿に盛り付けてテーブルに並べる。ハルが自分の皿を重そうに口に咥えてやってきた。私の足元に置くと「にゃぁ」と鳴いて前足で皿を前に押す。テーブルに乗せろと言う事らしい。皿をテーブルの上に置くとハルは椅子を使ってテーブルに登り、ご機嫌な様子で私が皿に猫缶を開けるのを待っていた。まったく利口で可愛い。


ピンポーン、


最後にナイフとフォークをテーブルに置いて完成!と言う所でチャイムが鳴った。
大家さんだろうか。でも私の家に来るのはお門違いだ。原因は隣なんだし。それとも取引先の人とか。いや、もし彼らだったら事前に連絡を入れてくれるし、第一家まで押しかけない。(俺の奴隷宣言の彼とか、桃色の髪をしたグラマーな中国マフィアの女ボスとかを除けば、だけど)


「はーい、」


ハルの猫缶を片手にドアを開ける。
悲しい事にウチにはインターフォンやテレビ付きのドアフォンなんて高性能なものは一切付いていない。


「よっ!」


目の前には数時間前に殴りつけた男がすっかり忘れたような顔で立っていた。


クレイジーボーイ
(どの面下げて来やがった。あ、この面か。)

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