「って、事なんですよ。」

「へぇー。」


一へぇですか。












その後



















「で、俺に何して欲しいの?」

「携帯取り返してください。」

「無理。」

事も無げに言い放った坂田にはがくーっと肩を落とした。
膝の上にはスクールバックがちょこんと乗っている。


「そこを何とか。」

「自分でいきゃぁいいだろ。」


に目もくれず坂田は生徒が書いたレポートに赤ペンを滑らせていく。
まる、ばつ、まる、まる。
すらすらと滑るペン。
はむくれた顔で坂田と赤ペンを交互に見て、口を開いた。

「だって、高杉先生って怖いんですよ。」

ぴたりと赤ペンが止まる。
坂田がやっと反応してくれたと思ったはまるで腹話術の人形のように
ぺらぺら喋りだした。

“目付きが悪い”から始まり“どうして数学の先生はみんな目付きが悪いのか”
を通って“ホスト顔”へと進む。

“眼帯の中には目玉のオヤジがいるんだ”の話が終わる頃、
第二教員室で作業をしていた桂と坂本が堪えきれなくなって
笑い出した。坂田はすでに爆笑だ。


「笑い事じゃないですよ!」

憤慨した様子でが叫ぶ。
それでも笑いは止まる事がなく、の顔が仏頂面を作り始めるまで続いた。

「落ち着けって。まぁ、茶でも飲めよ。」

そう言ってさっきまで自分が飲んでいた茶の前に置く。
据わった目のままは躊躇うことなくそれを一気飲みした。
そうとう腹が立っていたのだろう。
普段猫舌であるのにも拘らず熱いそれを一気だ。
少し喉がひりひりしたような気がするがあえて気にしないで
唖然と見つめる三人の目の前で湯飲みをダンッと置いた。

「兎に角どうにかして下さい。」

「無理だって。
お前と高杉の問題だし、俺が口出しするような事じゃねぇじゃん。」

最もな話にも黙る。
は下唇を突き出して坂田を睨んだ。


「でも先生。
私が言ったところで高杉先生は
“あァ?誰にもの言ってんだテメェ。殺すぞ、コラ”とか言って
終わっちゃいますよ。」

その発言にやっと落ち着いて茶を飲んでいた坂本が吹いた。
ごほごほと咳き込んだ彼の背中を桂が擦っている横で
坂田が感心たようにを見つめる。

「お前、高杉の物真似上手いな。」

そう。
の高杉の口真似は驚くほど似ていた。
声の質とか口調とか何から何まで似ている。

途端は輝かしいばかりの笑顔を坂田に向けた。

「私の十八番なんです、これ。
結構評判良いんですよ。」

さっきまでの仏頂面はどこへやら。
自信満々の口調と顔。

「確かに似ちゅうな。そっくりちや。」

坂本まで同意するといよいよの顔の笑顔は最高潮に達した。
眼鏡越しで坂田が意外にコイツって単純だよなとか思っていたのはまた別の話。



「他にも沖田先生の物真似とか土方先生のとかあるんですよ!」





へェ・・・そいつァ見てェもんだな。」













・・・・・・・・・・・・・・・・。









サァー・・・っとの顔から血の気が引いていく。
クククと笑った声が後ろからしたが、
その声が決して面白くて笑っているのではない。


「その前に・・・もう一回俺の物真似やってみてくれよ。なァ、。」


は心の中でゆっくり十まで数えた。

もしかしたらこれは幻聴かもしれない。
いや、きっとそうだ。

ほら、だって目の前には坂田先生がいるし、
その後ろには坂本先生も桂先生もいるじゃん。
密かに高杉先生の物真似を研究しているかもしれない。

そうだ。
うん、きっと、そう。

例え先生たちの口が動いていなかったとしても
視線が明らかに私の後ろを見つめていたとしても

どんなに頑張っても今さっきの声は後ろから聞こえていたとしても



高杉先生では あ り ま せ ん 。




八、九、十・・・・

はこれまたゆっくりと後ろを振りかえ・・・・・







































・・・・・コンマ一秒で逃げ出した。






























と、思ったら即首根っこを掴まれて強制送還。(職員室に)

















「ぎゃー!!!!」

「うるせェ。黙れ、コラ!」

もはや半泣き。

「すみません!すみません!!つい出来心だったんです!!」

「・・・へェ、出来心・・・。」

「先生だって出来心の一つや二つあるでしょう?!
沖田先生のアイマスクを一度でいいからパッチンしたいとか!
土方先生の瞳孔は何処まで開くかとか!!」

それはテメェの願望だろうが。」

ペイっとソファに放り投げられたの講義も虚しく
高杉による教育的指導は約一時間続いた。


携帯の方だが高杉の機嫌を見事に最悪にさせた為、一週間
の監禁処分となった。





合掌。