は俺がいくら邪険にしても本気で怒るような事は無かった。 いつも「世界はいつだって美しい!ぎゃはっ」って顔で毎日を謳歌して俺の吐いた嫌味を次の日には綺麗さっぱり忘れてくる。ムッとした顔や悪態を付いても冗談の域を超えず、だからと言ってご機嫌を伺うような気味悪い笑顔でもなく、言うならば“普通”だった。“普通”に昼飯持ってきて“普通”に俺と会話して“普通”にどうでもいい話をしている。ボンゴレとか御曹司とかそんなもの、の前では何の意味も持たず俺はにとって“普通”の同級生で“ただ”のザンザスだった。 「ザンザスのさぁー、」 「あぁ?」 「お父さんとお母さんて目ぇ赤いの?」 突然の話題に俺はおにぎりを食いながら黙り込んだ。が俺の家族について訊いてきたのはコレが初めてだ。コイツはバカで無駄にテンションが高くて頭は常に春が湧いていたが、俺の事を根掘り葉掘り訊いてくるようなマネはしなかった。単に興味がないのかもしれない。それでもうんざりするような質問をコイツの口から吐かれるのは耐え難い。俺は自分が思っているよりもずっとの事を気に入っていたから失望したくはなかった。 しかし、いざ訊かれるとカス共に訊かれた時のような鬱陶しさは感じなくて、それよりもコイツが俺の内面に興味を持ってくれたことに気持ちが高揚した。の興味はいつも学校の外にある。夕飯のおかずと近所の友達と日本の友達、時々母親の失敗談と父親のずぼらさと、それから日本で一人暮らしをしている兄貴の話。学校関係で興味を持ったのはコレが初めてのはずだ。 未だに黙ったままの俺には辛抱強く口が開かれるのを待っている。でもこの質問には答えられそうねぇから黙るしかない。もどかしさが体中を駆け巡る。俺の母親も父親に当たるあのジジィもどちらも目は灰色。俺だけが血の様に赤く、影で気味悪いと言われていた。そりゃ当たり前だ。自分でもそう思ってんだからは俺以上に気味悪く感じるに違いない。いつまで経っても口を開かない俺には気付いたようで「両方とも違うんだ?」と訊いてきた。沈黙で押し通すと横でが笑った。 「じゃぁ突然変異ってやつだね!だから綺麗なんだ!!」 「はぁ?」 やはりコイツはバカだ。 突然変異が綺麗とイコールで繋がるの思考回路はまったく理解できねぇし、あえてしたくもねぇ。でも突然変異だろうが科学変化だろうが俺のこの気味悪ぃ目を見て綺麗といった奴はコイツが初めてで更にが千ワットの無駄な輝きで持って俺に笑った事が、俺は泣きそうなくらい嬉しかった。は俺の気も知らずに「綺麗だ」とか「初めて会ったときから思っていた」とか「奇跡としか言いようがないね」とか聞いているこっちの方が恥ずかしくなってくるほど(一体どっからそんな言葉が浮かんでくるのか謎だ)嘆美な声を上げる。ので、頭を鷲掴んで壁に打ち付けておいた。潰れるような悲惨な悲鳴が聞こえたがコイツの事だ。すぐ回復するに違いない。案の定は三分後にはなんら変わらぬバカ笑顔で「ザンザスにはどんな風に世界が見えんだろうね」と訊いてくる始末だ。 「赤く見えたりすんの?」 「ンな事なってたら生活できねーだろうが、カス。」 「あそうか。」 「別に目の色が違うだけで変化なんてねーよ。」 俺の見るもの全てが赤く見えたら信号機とかどうすんだよ。全部止れじゃねーか。聞こえよがしに溜め息を付いたら無視された。は「素敵だ」「運命だ」「奇跡だ」と繰り返す。そんな期待する世界じゃねーよ。俺が見る世界なんて見ても面白くねーよ。カスばかりだ。くだらねぇものとくだらねぇ人間とくだらねぇ肩書き背負った世界ばかり。「勝者」と「カス」だけが住む汚く濁った狭い箱。 「いや、わからんよ。もしかしたらホントに違う風に見えてるかもよ。林檎が紫に見えたり、空がどどめ色に見えたり。あ、トトロとか見えたりして、きゃはー!」 こいつの電波は有害に違いない。 俺はコイツを一切無視してウメ入りのおにぎりに齧りつく。海苔に抵抗感はもうなかった。空を睨み付ける。どどめ色と言うのがどんな色か知らんが、視界に映るのは腑抜けたクソつまんねぇ水色と疲れ果てた灰色の雲だけだ。味気も何もねぇ。ただ自分の役割をそれぞれが最低限演じている空。不意にコイツから見た世界はどんな色をしているのか疑問が浮かんだ。だったらこの色褪せた空をどう思うのか。ゴミみてぇな人間がどんな風に見えるのか。・・・・俺はカス共よりも特別の席にいるのだろうか。 ・・・・・・・・・何言ってんだ俺。 最後の一口を無理矢理口に入れる。ウメが丸々一個入っていて眉間に更に皺を寄せる俺をが爆笑している。このあとは俺がトトロを知らない事を知ると「信じらんねー」と連発しいつもの如く俺に殴られてから説明と一緒に油性のマジック(なんで持ってんだ)を弁当袋から取り出して(?!)屋上のコンクリートに風貌を描いた。なんでもジャッポネーゼの代表的アニメのキャラクターで夢と希望と愛を与える妖精らしい。 こんなセクハラ的な半笑いしている妖精に俺は夢も愛も希望も貰いたくねぇよ。 |
突 然 変 異 レ ッ ド
(訂正、今日もお前はバカで電波です)
07.10.31