それからソイツとは屋上で共に昼飯を食べるようになった。
「なった」と言っても約束はなく、昼時になるとアイツが勝手に来た。いや、違うか。俺が一つ前の授業をサボって昼時までここにいるんだ。アイツが昼にここで食事を取るようになったのは俺よりも前からなのだから。と、なると勝手に来ているのは俺の方か。癪な気持ちになる。知らずに眉間に皺が寄っていたのかアイツは「皺寄ってんね」と気の抜けるような声で笑うのでとりあえず殴っておいた。




コイツの名前は。年は同じでクラスは知らない。
調べさせたときに報告された気もしたがクラスなんてのは知ってようが知っていまいが問題ねぇ。それよりも本当にの家がマフィアやそれに通ずる裏社会の家ではなかったことが興味を引いた。父親が貿易会社で母親はパート、四つ年上の兄がいて大学院に通っている。二年前から父親の仕事がイタリア勤務になったことから家族で引っ越してきたらしい。(兄貴は当時大学生だった為に日本にいるようだ)父親の滞在期間は三年でつまりは後一年で日本に帰るのだ。
何故か胸がもやもやする。胸焼けか?(昨日食った夕飯を思い出そうとしたが面倒になってやめた)それにしても何故この学校を選んだのだろうか。いっちゃなんだがこの学校は裏世界の人間のための学校だ。当然ソレ系の人間が多い。それとなく訊いてみた所単純に父親がダーツで決めたと言っていた。(この時俺は間違いなくコイツの能天気な性格は父親から受け継いだのだと思い知った


「でももっと普通の所が良かったなぁ。」
「・・・・(そりゃそうだ)」
「友達全然出来ないし、ファミリーとかドンとか、なんていうのかな用語?が飛び交っていてわけわからんし。」


家の近所には友達出来たし良い所なんだけどねぇ、とは苦笑していて居心地が悪い。
いつもは気持ち悪いほどの笑顔とテンションで俺を振り回すコイツが苦く笑う姿はどこか痛々しく感じる。この学校が、俺たちがおかしいだけで一般人のがこの学校で友達が出来ないのは至極自然な事であり、仕方がないことだった。そしてそんなをカスな連中たちがバカにするのも仕方がないことだ。マフィアとか抜きに接してみればコイツはカス共よりもずっとずっと上で、だからバカにされる謂れは全くない。しかしマフィアを抜きにして考えられないこの学校でそんな事は意味を持たず、当たり前の常識で以ってコイツは排除されようとしている。それが俺には無性に悔しかった。


「まぁ今に始まった事じゃないし。」


と、は何でもないように言いのけ、俺が顔を上げるといつもの顔で能天気にも「あ、見てみ!あの雲おにぎりに似てる!」と叫びやがる。(三角形なら何でもおにぎりだと思うなよ、アホ)
その気の抜けるような話題に俺はシリアスに考えるのも馬鹿馬鹿しくなって同じように空を見上げた。雲は悠々と何の変哲もなく漂っているだけだ。空と雲以外、障害もなくただのん気に浮かんでいる。隣では同じように見上げているだろうのかすかな息遣いや服が擦れ合う音だけが小さく聞こえて、他の人間の声は全く聞こえない。


まるでくだらねぇ世界から切り取られたようだった。
何にも捕らわれない世界。俺とコイツだけしかいない世界。それはひどく心地いい。




キーンコーンカーンコーン


耳を劈くような音で世界が簡単に壊れる。が「予鈴だ。」と立ち上がる。「・・・・ってザンザス、次の授業出ないん?」と覗き込まれたが壊れた世界は元に戻らねぇし、その事実に苛立ちが納まらねぇしで俺はいつも以上に不機嫌な声で「出ねーよ、カス」と邪険にしてしまった。・・・そんな事を言うつもりはなかったのに。


ふ た り ぼ っ ち
(本当に言いたかった言葉は、もう少し此処にいろ
07.10.20