この世には「勝者」と「カス」の二種類しかない。 イタリアのドンとして玉座に座る俺の親父は「勝者」であり公園に住む浮浪者は「カス」だ。経済的にも社会的にもこの二つからはその関係しか浮かばない。だからと言って俺は浮浪者を見下す事はあっても軽蔑したりはしない。「カス」は「カス」なりに地べた這いずり回って生きているのだ。それをとやかく言う必要はない。その間俺は「勝者」の道をただ一心に突き進むだけだ。それが当然であり事実である。そう思ったから俺は母親と別れて暗殺術や行儀作法やクソつまんねぇ芸術鑑賞や一般の勉強を必死こいてやってきた。全ては将来ボンゴレ十代目を継ぐために。 それがとんだ笑い種だ。 あのジジイは俺を後継者にするつもりはサラサラなかった。 息子の中で俺が一番資質があるにもかかわらず選んだのは長男だった。なんのことはねぇ。ただ“長男”てだけで。そんなくだらねぇ理由のために俺の今までの人生は無に還ったわけだ。本当にくだらねぇ。 人間は一度くだらねぇと考えると全てがくだらなく感じるようで、俺は必死こいて勉強するのも、蟻の様に群がり媚びへつらうカスみたいな連中たちも、そしてボンゴレを継ぐ事を信じて疑わなかった自分も、全部全部くだらねぇゴミのようにしか感じられず気が付いたら監獄に似た教室を蹴破って屋上に来ていた。 空は晴天と言うには雲が多かったが息苦しい部屋よりは断然良い。 風が吹きぬけ制服のシャツを揺らす。屋上からはバカみたいに金のかかったラテスだの、形だけの訓練場だのが建ち並び、その中や外を生徒や教師やらが己を着飾りながらうごめいている。 くだらない世界。どこもかしこもクズばかり。思いに耽っているとガチャリと屋上のドアが開く音がして何かを抱えた女が一人立っていた。見覚えのない女。ただ顔付きがアジア系だったためその噂はよく耳にした。“表世界の黄色い肌の女”“能無しの日本人”どれもが侮蔑を含んだ通り名で俺とは正反対の位置にいる女だった。初めてこんなに近くで見たが別段美人でもスタイルがいいわけでも何でもねぇ。肩くらいの黒い髪は硬そうでどんぐりみたいなデカい目をまん丸にして俺を見ている。 思えばそれがアイツとの(不幸の)幕開けだったわけだ。 |
Y o u a r e c r a z y !
(俺はこの日の光景を生涯忘れる事はねぇだろう、いろんな意味で)
07.10.15