私が知る限りではザンザスと言う同級生は笑った事がない。 朝高級車で登校してくる時も授業受けている時も休み時間もご飯食べている時も放課後になってまた高級車で下校していく時も、多分エッチな本読んでいる時だって口元が吊り上がる事はないのだろう。(いやエッチな本に関しては百パーセント私の予想だ)とにかく笑わない。と言うかいつも怒った顔をしていた。 きっと眉と眉の間にある深い皺は死ぬまで取れないんだろう。 ザンザスとは、同じクラスではなかったけど私はザンザスとよく一緒に居た。 何をするでもなくぼんやりしたり、たまに会話をしたり。ザンザスは私が勝手にザンザスの傍にいた事に何も言わなかった。「ここにいろ」とも「近寄んじゃねぇ」とも言わない。でも一度だけ、「なんで俺といる」と訊いた事があった。 その時も仏頂面は進行形で続いており、眉間の皺は筋肉で固まってしまいそうなほど深々と刻まれ、このままなのは(眉間が)あまりにも可哀相なので親切心で眉の皺を伸ばしてあげたら熱烈なアッパーをかまされた。あまりの愛に死んだ大婆様が見えたよ。ザンザスは私のデッド オア アライブなど気にした様子もなく(言っとくがお前がやったんだからな)二十五パーセント増しになった皺を見せ付けて「答えろ」と低く言い放つ。なので「ザンザスとの出会いは奇跡だったんだよ!」と溢れんばかりの笑顔と一緒に贈ってあげた。(ちなみにこの台詞だけ言うと九割の人が引いた顔をして、あとの一割は頭の弱い子を見る憐れな顔をします) ザンザスは目を軽く見開いて私の頭を片手で掴み上げ近くにあった壁に打ち付けやがり、更に「どうだ?直ったか?俺の知ってる医者に診てもらうか?」と深刻な顔で訊いてきたので頭突きをかましてやった。そこまで心病んでねぇよ。私の不意打ちの逆襲にザンザスは鼻を押さえて私を睨み、必殺☆頭突き返しを発動する。マフィアの学校の中でも一般ピープルの私は避けるなんて高度なテクニックなど持ち合わせていないのでモロに食らってしまった。あまりに痛さに ぬう゛おぉぉぉ、と思わずこの学校の有名人の鮫さん似の声が出てしまった。あの人はいつもこんなに腹に力込めて発音してるんだ。すげぇな、私だったら一日出しただけで筋肉痛になるよ。地に伏して撃沈している私をザンザスは綺麗な赤い目を半眼にして見下ろし言い放つ。 「奇跡なんてあるわけねぇだろ。」 なんだか生ぬるいラムネみたいな声色だった。冷たくも暖かくもなく、かといって心地良いかと問われれば首を振ってしまうような湿った声。何でも有か無で判断するこの男が中途半端な声を出してしまうほど“奇跡”は彼にとって困惑の対象なのだろうか。そう思うと私は胸に熱いものを感じてたまらなくなる。 だって奇跡なんて軽い気持ちで信じちゃえばいいし、ありえないなら「ありえない」って言えばいいのに。なのにバカ正直なザンザス君は「くだらない」と言う事で“奇跡”の存在を認めちゃっているのです。「くだらない」って言いながら本当は“奇跡”を信じたくて仕方がないのです。 (あぁ、なんて不器用な人なんだろう) 一生懸命大人ぶって、でも結局子供で、それを誰にもわかってもらえなくて。泣きたい気持ちを押し込める度に眉間の皺の数が増えていって、いつのまにか泣く事も笑う事も出来なくなった可哀相で可愛い人。愛しい人。 そっと心の中で呟いた一言に心がこんなにも暖かくなる。この時初めて私は自分がザンザスのことを好きなんだと自覚した。意地張って強がって眉間に皺を寄せながら生きるこのどうしようもなく不器用な男を。そして思わず、ぽろっと。本当にぽろっと。 「そんな事言うザンザスも好きだよー。」 ・・・・この日私はザンザスに初めてとび蹴りを食らいました。 今日最後の夕日は彼を真っ赤に染め、私も真っ赤に染めるのです。 |
つ ま り は 、
(一世一代の告白だったわけなんですよ)
07.10.14