廊下を歩いているといつものように唄が聞こえた。
低くもなく高くもなく素朴な声。そんな声で歌を唄っている人は一人しか居ない。


「And now the end is near.And so I face the final curtain―― ♪」
「やけにご機嫌だな、。」
「あぁ、デイダラさん。今お帰りですか?」


彼女は振り返ると痣を隠そうともせずに笑い、再び作業に向き直る。手元には傀儡のなりそこないがあった。てっきり直しているのかと思ったがどうやら違うらしい。彼女の手は直すというよりは造っていると言うような手つきだ。デイダラは心の中で嘲笑する。首は不安定、腕はボロボロ。これはどこから如何見ても出来損ないだ。しかし彼女の顔は真剣そのものでソレがいっそうデイダラから見る彼女観を惨めにさせる。更にが作業している所がサソリの部屋の前と言うのも可哀相だ。


「うん、今回は長引いてな。――サソリの旦那の部屋には入らないのかい?」


理由は彼女が言わなくとも知っている。入れてもらえないのだ。サソリの引きこもり癖はハンパなく徹底している。(この半年で少しは出てくるようになったが陰険さはまだ健在である)は出来損ないの傀儡を弄る手を止めると嬉しげに笑った。


「傀儡として出来たら持って来いと言われたので。まだ全然なんですけどね。」
「(バカ犬、)」


デイダラは珍しく目尻を吊り上げた。いつもは嘲笑か呆れが来るのだが不快な気持ちになる。足元に転がっている部品に目を走らせた。こんなバラバラな部品じゃ傀儡は作れない。サソリは最初から部屋に入れる気なんて無いのだ。なのには懸命に創りあげようとしている。バカ犬。お前の飼い主はお前を部屋に入れる気はないぜ。心中で呟くと口が不自然に歪んだ。残虐性を含んだような表情。幸いは傀儡を弄繰り回していたから彼の顔を見ることはなかった。


「My friend I'll say it clear.I'll state my case of which I' m certain―― ♪」


囁くようで強く、掠れるように甘い。
彼女の隣に腰を下ろす。の歌はイタチが認めるほどに上手い。自分たちに巻き込まれなければ其れなりに名を馳せたシンガーになっていただろう。そう思うと悪い事をした気になった。でも例え彼女の村が残っていたとしても彼女は笑い者のまま一生を過ごす事になるのだし結局縁がなかったのかもしれない。ほとほと可哀相な人生だ。


「I've lived a life that's full.I traveled each and every highway――」


寄りかかった部屋の中からは殺気を感じる。自分にだけ向けられたソレ。デイダラはソレに気付きながらもあえて気付かない不利をした。彼女が部屋に入るのは嫌、だからと言って帰す気も無い。歌を唄うのは良いが、他に聴かせるのは気に喰わない。


「And more, much more than this―― I did it my way.」


低く喉で笑う。部下が部下なら上司も上司。
自分のパートナーながらまったく面倒な人である。


み ん な の 歌
(ピエロは誰にでも唄うよ)