「サソリさん、起きてください。夜ですよ。」
「・・・・・普通夜は寝るものだ。」


ノックの音と共に部屋に入ってきたがカーテンを開け、窓を開けた。ついでとばかりに点けられた電気の明るさにベッドで寝ていたサソリは唸りながら煩わしげに顔だけを彼女に向ける。しかし、当人は怯える事もなくクローゼットからコートを出して額当てを出してと忙しなく動いていた。


「そんな正確に寝れるお仕事じゃないでしょう。ささっ、起きてくださーい。」


彼女の明るい声が頭に響いて思わず耳を押さえる。このままだと毛布すら引っ剥がされかねない。不本意だが任務があるのも事実であるし仕方なく起き上がる。サソリが起きた事に満足したのか彼女は着替え一式を枕元に置いて今度は散らかった傀儡の部品を拾い上げていく。無防備に曝された背中。クナイを投げれば刺さる距離だ。にも拘らずはサソリを警戒した様子も無く、彼が今朝あまりの眠さに何処かへ放り投げたサンダルの片っ方を探している。


「サソリさん、どこにほっぽったんですか?」
「知るか。死ぬ気で探し出せ。」
「また無茶な事を・・・・あった!」


どうやらサンダルは人形と人形の間にあるようでは触らぬよう(触れたら何が起こるかわからない)身を滑らせて精一杯腕を伸ばしているようだった。女とは思えない掛け声のような唸り声のような声を出す彼女を特に気にする事も無くサソリもサソリで裸足で部屋を歩き回り傀儡の調子を調べている。
彼女が自分の部下(と言う名の世話係)になったのは半年ほど前ではあるがその半年よりも前は誰かを部屋に入れるなどということは有り得なかった。そう考えると彼女は自分の中にある『何か』を変えた存在となる。足元にも及ばない“彼女”が暁の一員である“自分”を。・・・・くだらねぇ。サソリは短く息を吐いて止まっていた手を動かす。


(ただ毛色の違う犬に調子が崩れただけだ)




「と、取れましたよ!」
「遅ェよ、クソが。」
「・・・感謝されたいとまでは言いませんからせめて“そうか”で留めていてくださいよ。」
「あぁん?何くだらねぇ事言ってんだ。さっさと靴寄越せ。」
「はいはい、ちょっと待ってて下さいね。今埃落としますから。」


滅多に掃除されない人形の間は埃がかなり溜まっている。埃で汚れた所を手で払いながらサソリの前にそっと置く。その親切すら当然の事のように受け取ってサソリはサンダルを履いた。


「行くぞ。」
宵を更に濃く染めるようにコートが翻る。


「はい。」
ニコリと笑ったの髪を夜気を含んだ風が躍らせた。




消 え な い 夜
(夜はまだ終わらない)