数分前の俺は確かに意気揚々とアイツにリニューアルされたであろう俺の部屋を目指していたはずだ。
俺が生きてるのをあいつらは知らない。勿論口止めしたのは俺だ。(助けられただけでもアレなのにボロボロのままなんて格好悪ィじゃねーか)(そして俺を酷使するメンバーにちょっと苦労を味あわせてやろうと思ったのも事実だ)傷は結構深くてリハビリが出来るようになるまでも時間を要したし、元の調子に戻すまでにはそれ以上の時間がかかった。気付いたらこの屋敷に足を踏み入れるのも四年ぶりだ。さっきから屋敷のメイドが幽霊でも見たかのような顔をして道をあけて行くが気にしない。俺はザンザスへの挨拶もほったらかしに現(旧俺)の部屋を目指した。



「久しぶり」「帰ったぜぇ」「ブサイクな顔してんじゃねーよ」「相変わらずだなぁ」思えばアイツの驚く顔を前にして不敵に笑って言う台詞はいくらでもあったはずだ。だが、俺が出て行ったときから何も変わらない(表札だけアイツの名前に変わっただけだ)部屋の中でアイツが空をぼーっと眺めてる姿を見て何も言えなくなってしまった。カーテンが揺れる。その先には晴天の蒼。泣いたり怒ったり笑ったり忙しかった双眸は嘘のようにただの黒い硝子玉みたいだ。その目がゆっくりと俺を映す。硝子玉のような目が確かな重さを持って俺を捕らえた。


ス、クア−ロ?
「・・・・・よぉ、」


発する声は頼りない。驚く顔はそのまま何処かに消えてしまいそうだ。なんて顔してんだ。みっともねぇ。俺の知っているお前はもっと能天気な顔をしていやがったぜ。平和ボケした顔でよ、よく笑ってたじゃねーか。死、んだんじゃ。なかった、の?とアイツは茫然とした声で呟いた。今度こそ俺は不敵に笑って答える。




「俺が死ぬはずねぇだろ、バカ。」


そうだ。俺が死ぬはずねぇ。俺はこう見えて出来ねぇ約束はしない性質だ。だから怪我する前に相手を殺すし、インフルエンザ対策もバッチリだ。何処に死の要素があるか知らねーけど、回避する方法はいくらだってある。明日生きてる保障は何処にもねぇが死ぬ保障も同じ様にねぇ。








(お前が俺を必要とする限り俺は死なねぇよ)


と、言うはずだった。そう言って決まるはずだったのだ。(だってコレは最大の告白に値するだろ?)な・の・に、だ。コイツは色気もへったくれもねーから、情緒もムードも考えやしねぇ。(だからコイツは彼氏が出来ねーままなんだ)コイツが涙流して「おかえり」とでも言やぁすべでが丸く解決するはずだった。なのにあろう事かコイツは大声で泣きやがったんだ。しかも可愛さすらない「わ――――――――――ん!!!!」だか「うぇ―――――――ん!!!!!!」だか知らんがとにかく煩い。しかも泣きながら「いっぺん死んで来い!!」とか「だからアンタは鮫なんだ!」とかわけわかんねぇ事言いながら右ストレートかましやがった。


「う゛お゛ぉい!!これが怪我人に対する仕打ちかぁぁ?!」
うっさいバカ!!!鮫!!鮫!
「意味わかんねぇよぉ゛ぉ!!!」


俺との攻防に気付いたのか他の奴等が集まりだした。てっきり懐かしい気分になるかと思ったが、俺の中で暗殺業は転職なのか昨日任務後に見かけたような気になって感動も何も無い。あっても気持ち悪いだけだけどな。相手もそうなのか俺が生きてる事に何も驚かれなかった。(俺が四年間隠してたのは何だったんだ・・・)


鮫!鮫・・・っ・!・・・・・わ――ん!!
「貶すのか泣くのかどっちかにしろぉぉぉ!!」
「うわ、お前帰って早々泣かしてんの?最悪ー。」
「そんなんじゃ女にモテないわよ、スクアーロ。」
「ふん、だからお前はカスなんだ。」
「ぷぷっ・・・・」
「う゛おぉぉいレヴィ!!笑ってんじゃねぇぇ!!!!」
「まったく煩い男だね。賠償金取るよ?」


言いたい放題言いやがって!久しぶりに剣の具合(レヴィ辺りで)を見るのも悪くねぇが鼻をぐずぐずさせながら大泣きするコイツをどうにかするのが先だ。「、」そう声をかけると泣く声が大きくなった。「泣いてんじゃねーよ!下ろすぞコラァァ!!」更に泣く。本当にお前は泣き虫の甘ちゃんだな。俺が居なきゃ何も出来ねーのかよ。だったらこれはもう、


「ずっと居てやるしかねーよな。」
な゛ん゛か゛い゛っ゛た゛?
「・・・・なんでもねぇよ。オラ、鼻拭け。」


溜め息混じりに、その汚ぇ顔をもう常備する癖が付いてしまった用のポケットティッシュで拭いてやる。それをマーモンが見て笑ったのは俺もベルもボスもオカマもレヴィもコイツも誰も知らない。


(よかった、キミはやっと泣けるようになったんだね?)







ただじゃ死なねぇ主義なんだ
07.06.07