最後に見たのがアイツの無表情だったからかもしれねぇ。いつも笑ったり怒ったり泣いたり忙しいヤツなのにあの時ばかりは珍しく無表情で、らしくねぇなと思った。ここは泣くか哂うか怒る場面だろーが。何か言ってやりたかったが次の瞬間には海水の中に引きずり込まれていてアイツの無表情だけが頭に残った。








俺との腐れ縁付き合いは長いようで短い。と言うか覚えてねぇ。俺がS・スクアーロと呼ばれる前から一緒だったが、スラム街で生活していた頃には居なかった。ただ一つわかっているのは俺の傍にはアイツがいつもいた事だ。学校に入る時もヴァリアーに入る時も幹部になった時も能天気なアイツがいつも居た。
あの日は雲一つない快晴の天気だった、と思う。(思い出っつーのは常に綺麗じゃなきゃいけねぇ)(間違っても雨の日なんかじゃねぇ)(そんなの俺が認めるか)ヴァリアーに入隊した時だ。たしかザンザスに計画が成功するまで俺は髪を切らねぇ、と豪語した日だった気がする。前にはザンザスが居て隣にはがいつも通りのアホ面で立っていた。青い空を眺めて(ほら、やっぱりあの日は晴れだった)それから俺を見て一言願掛けなんて女みたいとむかつく事を言い放ちやがった。うるせぇ。俺はそう言ってアイツの短い髪をぐちゃぐちゃにしてやったんだ。アイツは何やらもごもごと文句を言ったけどその後、妙に真剣な声で死なないよねと言った。どーしたぁ、お前らしくもねぇ。頭に置いていた手に少し力を入れて顔を上げさせると深刻な表情をしたの顔がそこにはあった。


死なないよね、スクアーロ。


疑問系のくせにどこか断定系を匂わす言い方。その顔は不安そうではなかったが、冗談で言ってるようにも見えねぇ。何処までも重い問いだった。(未だに俺はこの問いの一番良い答えを知らない)(きっと宮沢賢治だろーがソクラテスだろーがガンジーだろーが答えられねぇはずだ)(だってこれはとても、)
俺はシリアスとか嫌いで、そんな柄でもねーし、適当に 俺が死ぬわけねーだろと言った。アイツはうんと頷いて笑ったけど。今思えば出来ねぇ約束はするもんじゃなかったな。人間刺されれば怪我するし、インフルエンザに罹れば熱だって出る。鮫に食われる事だってあるさ。死の要素なんか何処にでも転がっていやがる。明日生きてる保障は何処にもねぇ。あぁ、目の前に口を大きく開けた鮫が見えるぜぇ。今ならその歯の鋭さもよく見える。俺を一瞬で噛み砕くんだろうな。水面を見上げる。お前の顔はもう見えねぇ。最期にもう一回だけお前の姿が見たかった。
(甘ったれで泣き虫でおまけに鼻炎で、季節の変わり目は箱ティッシュを小脇に抱えて任務に行き、ボスに怒られていたお前。剣も俺より弱くて足の速さも俺より遅くて髪の手入れも全然ダメで、俺に勝てる所なんか一つもないダメ人間だったお前)



なぁ、
お前は俺がいなくても平気か?












・・・・・・・・・・・・んなわけねぇよな。