空が青い、そんな日は何処か不安になる。
空を見上げて能天気な色だと笑ったキミが、そのまま地面を離れて空よりも高い何処かへ逝ってしまう気がするから。











「マーモン、他に買うものある?」
「ないよ。あ、でもルッスーリアが新しい紅茶の葉買っといてってさ。」


だったら早く言ってよね!は眉に皺を寄せてプリプリと怒った。昼間のショッピングモール。ボスやレヴィあたりなら目立つけだろうけど彼女はヴァリアー内で唯一の表世界出身者で、明るい世界に慣れている。だからその街独自の雰囲気だとか服装だとか簡単に真似て溶け込めるのだ。(街に溶け込むって案外難しい)(こんなことが出来るのはメンバー内でも彼女だけだ)がカートを押しながら鼻を啜った。そういえば風邪を引いたと言ってたっけ。


「風邪治んないね。」
「だって休みの日もボスが仕事入れてくるし、やっとの休日はベルが部屋に押しかけてくるかこうして買物じゃん。多分一生治させない気だよあの人たち。」
「・・・・そうだね。」


それはキミが心配だからだよとは言わなかった。いや、言えなかった。言った所で彼女は柔らかく笑うだけだ。優しい笑みだけ。それで終わり。きっと僕の言葉が心まで届く事はないのだろう。スクアーロがいなくなってからは少し変わった。外見は変わらないし、性格も相変わらずの苦労人タイプだけどスクアーロが死んだことを時々忘れるようになった。何気ない会話の端々で彼女の口からスクアーロを思わす単語が自然と零れ落ちる。その度に僕らは不安になるんだ。
壊れるくらいに泣く事も、スクアーロを笑って見捨てた僕達を殴る事も。彼女は何もしないからある日突然誰にも何も言わずに消えてしまうんじゃないかって。だからボスは任務を押し付けるし、ベルは暇つぶしを口実に花束持って彼女が消えてないか部屋に押しかけるんだ。ルッスーリアは毎日お茶の時間を設けていて、レヴィは不器用だから嫌味しか言えないみたいだけど毎日の顔を見に来ている。僕だってこうして柄じゃないおねだりをして彼女を買物に連れ出している。少し気恥ずかしいけど買い物の時はいつもより楽しそうに笑ってくれるから僕は嬉しい。でもソレと同じくらい彼女の顔を見て辛くなる時がある。


ねぇ、キミが笑ってくれるならそれで良いはずなのにキミの口から零れ落ちる何気ない言葉に僕はひどく動揺してしまうよ。シャンプーはもうあるはずなのに今あるのはサラサラにならないってみんな煩いじゃんと笑う姿に本当に柄じゃないけど泣きそうになる。違うよ、みんなじゃない。一人だけだよ。数年前まで生きていた長い銀髪の剣士だけ。でなきゃ一体誰がそんな事言うのさ。沢山の言葉が喉を押し上げて出かかった。でもキミの横顔を見ていると飲み込む他なくて僕はこの時ばかりは口を噤んでしまう。


(ねぇ、


お願いだから居ない人の事を当たり前に話さないで。居ない人の分まで選ばないでよ。選んだ後、彼がいないことに気付いて複雑に笑うキミに僕はなんて声を掛ければいいの?商品を元の場所に戻してキミは小さな声でバカでしょ?って同意を求めるけど。掛ける言葉が見つからないから僕もバカだねって頷くけど、次の店でキミはまた一つ分多く選んでる。ねえ、キミは昔僕に言ったよね。スクアーロが居なくなったらあの部屋私が使うんだって。念願かなって移り住んだスクアーロの部屋はもうキミの部屋でしょ?なのになんで彼が出て行った日のままの状態で今も残り続けているの?あんなに地味過ぎるってケチつけてた黒い皮製の、ほら、あの大きい椅子。何で捨てないの?(座るべき人はもういないのに)


ベルやルッスーリアはキミが彼を好きだったんだって言ってるよ。でも僕は違う気がする。上手くは言えないけど好きとか、愛してるとか、そんな簡単な問題じゃないと思うんだ。ああ、こんな事思うなんて本当に柄じゃないね。勿論にとってスクアーロがどんな存在だったのか僕だって知らない。(知ったところでスクアーロが生き返るわけでも、がスクアーロを忘れるわけでもないのならそれは駐車場に転がっている石よりも意味がない事じゃないか)


ねぇ、あの椅子にキミが時々うずくまっているのを知ってるよ。快晴の日は空をいつもぼんやり眺めてるよね。今、キミにスクアーロを忘れろって言うのはやっぱり残酷な事なのかな。僕達はキミが立ち直るまでもう少し待つべきなんだろうね。でも、



「んー?」
「ソレ、何に使うの?」


「・・・・ウチのメンバーで結わえるほど長い髪のヤツなんていないじゃないか。」


僕たちはいつまで待てば良いの?


お ね が い 、 忘 れ て
(だってスクアーロはもう居ない)
07.05.01