ピンポーン




インターフォンの音で高杉は目が覚めた。
続いて はーい、明るい声と共に玄関へ小走りで駆ける足音がした。
高杉はもう一度目を閉じ、身を布団に沈める。
時計はないが多分十時くらいだろう。スズメの鳴き声がうるさいから。

遠く、と相手の声が聞こえる。






「あらー久しぶりやな!元気やった?」
「元気じゃ!さんは今日も綺麗じゃぁ!」


「・・・。」



アッハッハッハと豪快に笑う訪問者に知り合いが重なる。
いや、まさかいるわけない
他人の空似だろうと括って再び寝ようとするが・・・







「一人なん?お連れさんは?」
「今日はわしだけ。
久しぶりの地球やき、はよぅさんに会いとーて一人で来たんじゃ。」




何だコイツ。
馴れ馴れしくしやがって。しかも口説いている。
目を瞑りながら腹を立たせる高杉。



「あははは、いつも面白いなぁ。煽てても何もでぇへんよー。」
「いやいや、本心やき。」
「それよりみんな元気しとる?」
「(流されちょる・・・)相変わらず元気ちや。
この間なんか陸奥が売り物みしくれて(壊して)おおごとじゃったが。」






・・・・・・陸奥

確か知り合いの連れも同じ名だった気が。
いや、しかし、そんな事。




「あは、むーちゃんらしいなぁ。」
「あ、そうじゃ。これお土産。」
「え、何なん?」
「お菓子じゃ。茶飲みに合うじゃろう。」
「おおきに!あ、上がってや。坂本君。」












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



バサッ




ドタドタドタドタ





「そいつ家ん中入れんじゃねぇー!!!!」








「(ビクッ)な、何や。高杉君どないしたんよ?!」
「高杉!!おんしこがな所で何をしてるんじゃ!?」

「え!坂本君、高杉君のこと知っとんの!!?」
「ほりゃあこっちの台詞じゃ!!さん高杉のこと知っちゅうが!?」



え?え?と互いに顔を見合わせて困惑する二人。
再び高杉の怒声が響いた。

























の色




















「何むつけとんの?」
「むつけてねぇよ!!」


とりあえず落ち着こうと坂本を家の中にいれお茶を出すに高杉は威嚇するように
怒鳴った。
真撰組の事件以来どうも高杉はの傍を離れようとしない。
いや、離れないといってもが家に居れば家に居て買物に行くとなれば 
しょうがねぇからついてってやるよ。と偉そうに言ってついてくるだけなのだが。

そしてもう一つ。
に近づく者に過剰に反応して八つ当たりをする。(に。


「うわ、また怒った。なんなんよーどないしたんー?」
「怒ってねぇ!!」
「高杉はわしに妬いてるんろー。なぁ、高杉。」

アッハッハッハ。
モテる男はつらいぜよ!

「テメェは黙ってろ!!」







ドゴッ















飲み終えた湯飲みを坂本の頭に投げつける。
庭で鳥が一声鳴いた。
















「あれ、高杉君寝たん?」

家先を通った西瓜売りから西瓜を買って帰ると縁側で
目を閉じている高杉とにこにこ笑ってる坂本を見つけた。
時計を見れば買いに行くと言ってから三十分以上経っていた。



「堪忍なー。ついつい話こんでしもうた。」

申し訳なさそうに謝るに坂本が手をひらひら振る。


「いやいや、さんのせいがやないよ。
こいつは昔から昼寝が好きじゃったし、今日はだれてるみたいじゃ。
そっとしておこう。」


わしゃわしゃ高杉の髪を撫で回す坂本。
クスリと笑い頷いて坂本の隣に腰を下ろした。



「今回の商いはどうやった?」
「大成功じゃ。結構な黒字で陸奥の小言もなし。」
「あはは、むーちゃんもそりゃ嬉しいやろなぁ。」

他愛も無い会話。
それに笑ったり、驚いたり。
あの星はこうだった。
この星はああだった。

尽きる事の無いにとっては不思議な話に時間がすぐ過ぎる。



「けんど、地球が一番ええ。
宇宙から見る地球はまっこと青うてきれえだ。
暗い闇の中青く光っちゅう。
わし等はそれを目指して帰るんじゃ。」

地球の青は海の青じゃ。空の青じゃ。
一番きれえじゃ。


空を指して笑う坂本の目は活き活きしていて少年みたいだなと
ひっそり思った。
大きいからだの少年だ。
ふふふ、と声に出して笑って

「うん、地球の青は一番綺麗や。」

坂本が嬉しそうに笑う。

「そうじゃろ、そうじゃろ。
そして地球は景色もきれえじゃ。
一番きれえじゃ。」

「そやね。」

宇宙に入った事が無いけれど、
きっと此処以上に綺麗な所はない。
暖かい日差し。澄み渡った青い空。
木々は緑に息吹いて、花はとりどりに色づく。

「綺麗、綺麗。
ずっと閉じ込めたいくらいに綺麗や。」


横で高杉の寝息が聞こえる。
風鈴の音。風が穏やかに吹いて高杉の髪を揺らした。
西瓜を冷やしていた桶の中の氷が小さな音を立てて崩れる。
高杉が寝返りを打って猫みたいに身体を丸くした。

ふと思い出す。

同じ縁側で『彼』もよく昼寝をしていた。
風邪を引くからやめろって言ったのに・・・。




高杉は。

良く似ている。
似過ぎて切なくなるほどに。
が愛しむように高杉を見て呟いた。



(それは続かなかったあの日を悲しむように。)
















「こんな日が・・・ずっと続けばえぇのにね。」
















続くじゃろう!

坂本が高らかに笑う。
それに目を覚ました高杉が不機嫌そうな顔で二人を
睨み付け、に向かって
西瓜買うのにどんだけ掛かってんだよ!と怒った。


「じゃぁ、西瓜食べよかー。」


もうすぐぎょうさん人来るやろうし。

そう言ったの後から「ー。」と庭外から呼ぶ局長の声が聞こえた。
にっこり手を振る近藤の後ろには高杉をじっと睨み付ける土方、
少し嬉しそうにを見る沖田、土方の様子におろおろする山崎の姿がある。




「今西瓜切ろう思っとったとろやねん。上がりぃー。」


蜩が鳴き始める庭に凛としたの声が響き渡った。