突然だがは歌舞伎町を最高に不機嫌な顔で歩いていた。

道行く人は恐れをなしてそそくさ逃げ去っていく程に凄い顔だった。
自称)人畜無害な彼が今日は人畜有害になりつつある。
というか、もうなっている











シーソーゲーム










時間をさかのぼる事、三十分前。

は寝室の自分のベッドの前に立っていた。
心なしか目は虚ろで口元には薄く笑みを浮かべている。


自慢じゃないがは腕の良い医者だ。
気まぐれに休診を決めるのに患者が減らないのはその為だ。
の専門は主に外科で病院と言っても入院すら出来ない小さな診療所だが
地域の人は高熱が出ても大怪我してもを頼る。
元々医者の少ない町だから仕方がないといえば仕方がないのだが。

も最初のうちはそう思っていた。
実際、医学知識は人よりもあったし、専門範囲以外の医学にも手を伸ばす
密かな野心家だった為、大体の病気や怪我は治してきた。
しかし、限界があるだろう。



の腕を噂で聞いた警察が監察医の依頼をしてきたのだ。
つまりそれは死体の解剖だ。
監察医とは死んだ原因を知るために死体を調べる医師の事だが
医学は医学でもそれは法医学に入る。

最初それを聞いたときはぶん殴ってやろうかと思って拳を作ったが、
監察医がこの国自体数えるくらいにしかいないのも事実だ。
渋々依頼を受ける事にしたのが間違いだった。

朝起きると家の前にはすでに患者が並んでいて診療は夜までかかる。
夜七時までとしている事からどんなに長引いても八時には上がれる。
その後、依頼された解剖を済ませ資料を作り終わるときには夜は
とっくに更けて朝方だ。
それ以外にも事件だなんだで真撰組に借り出されると寝る時間なんて皆無。
実際、休診である今日までは寝ていない。





「・・・・一週間ぶりの睡眠だ。」


あと一歩踏み出せばベッドにダイブ。
夢の世界にダイブ!
どうしようもない幸福感がを包む。
まさに踏み出そうとしたときだった。




電話のベルが鳴った。

「・・・・・・・・。」


嫌な予感だ。出たくない。
しかし、電話の主もそんなの心境を理解してか中々切れない。
しばらくベルだけが鳴り響き、折れたのはだった。



「はい、医院。スンマセンけど今日は休診です。」
「俺だ。」
・・・俺という名前の人に知り合いはいません。
「斬るぞ、コラァ!!」
「で、何の用だ、土方。」
「判ってんなら聞くな!」
何 の 用 だ 。
「・・・・。今日お前非番だよな。」
「非番っちゃー非番だな。」
「それで、だ。お前にたの
「断る。」
「まだ何も言ってねぇだろーが!!」
「またろくでもねぇ頼みをするつもりだろ。いいか、土方。
こっちは交代制もクソもねぇ病院なんだ。
休みくらいゆっくり休まなきゃ身がもたねぇ。」
「気まぐれに休んでるじゃねーか。急用だ。局長がいなくなった。」
「ああ?近藤さんならどっかの女の尻追っかけてるんじゃねぇの。」
「女の身元はわかっている。」
ならさっさと見つけろ。俺は眠い。」
「生憎俺も仕事が入ってて手が離せない。お前が代わりに行って欲しい。」
・・・・・テメェの頭、解剖してやろうか?
ま、ちょっ、しょうがねぇだろ?!!今日は手ぇあいてる奴がいねぇんだよ!」
「俺だって手ぇあいてねぇよ。」
「寝るっつってたじゃねぇか!」
「ああ、寝る。もう身がもたねぇ。」
「・・・お前、確か異国の医書が欲しいって言ってたよな。」
「(ピク)・・・。」
「異国の医書だと普通の書店じゃ出回ってないだってなぁ。」
「・・・・・・何が言いたい。」
「この際俺が幕府に取り入って買ってやっても良い。」
「代わりに近藤さん探せってか?」
「見つけたら連絡よこして見張っててくれれば良い。」
「今回限りだからな。」
「あぁ、頼んだぜ。」





この後、引き受けなければ良かったと後悔が過ぎるのをはまだ知らない。





(タイトルは『Mr Children』より。 )