ゲホゲホと血を吐いていると 「おい。」 草履が砂利を噛む音と共に 「。」 なんとも不機嫌そうな声が私の名を呼びました。 おやすみ 濁りかけの眼で見上げますと やはり、予想していた通りの男が不機嫌そうな顔のまま私を見下ろしておりました。どこかふてぶてしさを表しているその表情に苦笑してやろうと口元を緩めますがどうやら体の機能は停止を迎えているようでピクリとも動きません。代わりに耳障りな咳と真っ赤な血を吐きますと彼はいっそう顔を歪めました。 「死ぬのかよ。」 どうでしょう。わかりませんな。なんとも情けない事ですが自分の体がよくわからないのです。唯一わかることは斬られたと云うのに痛くも苦しくもないのです。どうやら私はもうダメのようですね。 「テメーも銀時と同じで随分と甘くなったもんだな。修羅と呼ばれたお前がガキなんかに斬られやがって。」 彼はバカにする様に低く笑います。 しかし何故でしょうか。少しも楽しそうには聞こえないのです。 「死ぬのか、。」 嗚呼またその質問ですか。そうですね、死ぬのかもしれません。だってこんなにも血を吐いているのに少しも何も感じないのですよ。貴方から見たらさぞかし悲惨な光景でしょう。ましてや雪が降っているのですからね。それはそれは大層見るに耐えない様子でしょう。けれども私の目には貴方の後ろで底抜けの青がなんとも綺麗に映っております。冬の空は元々綺麗でありますが今日はひときわ綺麗です。久々に貴方の三味線の音と高らかな歌声を聞かせてはくれませんか。今日はとても綺麗な空なのですから。 「死なねェよな。まだ生きれるんだろ。」 そう言って彼は血で汚れるのも構わず私の傍に膝をつきました。友禅染の着物に赤い染みが滲んでいきます。なんて顔をしているのですか。貴方らしくない。そんな母親に見放された赤子のような顔なんて貴方には似合いませんよ。確かに貴方は四年前からずっと独りだったでしょうが、今はまた仲間がいるじゃぁありませんか。武市さんと言う方は中々に落ち着いているようですし、もう貴方は一人で歩けるのでしょう。だから悲しい顔などなさらないで下さい。心配で逝くに逝けなくなります。せめて笑ってください。いつものようにバカにした笑いでもいいですから。私を安心させてください。 「。。」 ほら、見てください。空がとても綺麗です。これなら迷う事無く逝けそうです。 下は惨憺たる景色でしょうが上はこんなにも美しい。どうか おやすみと囁いて。 「死ぬな。お願いだから、死なねェでくれよ・・・。」 ぽたりと雨が一粒落ちました。随分と暖かい雨で御座います。貴方の。貴方からの。最初で最期の雨。 (そんな殺生な事を。もう休ませて下さい。) |