「二酸化炭素や森林破壊によって地球はまさに危機に晒されています。」 深刻身の帯びたアナウンサーのリポートを聞きながら煎餅を齧る。パリッといい音が出た。隣で山崎がミントンのラケットを磨いている。其の隣では土方さんが煙草をふかしていた。さんは目を閉じている。 コッチコッチと時計の音がテレビの音に紛れて小さく鳴っていた。 地球は危機に晒されているらしい。 百年経てば自分と言う存在は消えて、そう遠くない未来には地球と言う世界は元の塵に戻ってしまうらしい。 それまでの時間僕たちは何を無くして、何をこの金で買っていくのだろう。 屈折率 「山崎ィ。」 「はい?」 「金で買えないものってあると思うかィ?」 ぼぉっとテレビを見たまま問う沖田に山崎は最初ついに頭がイカレたかと思った。そしてテレビの見出しを見て嗚呼なる程とラケットを磨く手を休め、しばらくうんうん唸ってから答えた。其の顔はやはり難しい表情をしている。 「んー・・・・空気?」 「買えまさァ。」 「えー買えませんよぉ。」 「空気瓶とか言って売れるだろィ。」 「誰買うんですか。」 「地球温暖化で空気が薄くなったらバカ売れですぜ。」 「・・・・・じゃぁ、愛、とか?」 「援助交際は愛を売ってるんでィ。」 「えー、じゃーもーわかりませんよぉ。副長は如何思います?」 行き成り話を振られ、土方は、あ?と顔を歪めた。 煙草を灰皿に押し付けて何気ない顔で口を開く。 「夢だろ。」 「うわっ、意外。」 「あ?何だとコラ山崎。」 「え、や、珍しいことを言われるものですから・・・」 「山崎は似合わねェって言いてェんでさァ。」 「山崎ィィィィ!!!」 「ギャァァァー!!!!」 「夢だって金で買えるじゃねーですかィ・・・。」 後ろで刀の振る音や畳が斬られている中、沖田は独り言のように呟く。 二人には聞こえていない。というか、聞いていない。(特に山崎) 夢を実現するのだって金次第だ。 どんなに能力があったって金がなければ実現できない。 金が全てだとは言わないが夢を掴むチャンスであるのは確かだ。 でなければ真撰組は建てられないし自分が今ここにいる事もない。 空気も、愛も、夢も、人だって金で買える。 文化が発展すればするほど何でも買える世の中になっていく。 「時間。」 はっと沖田が顔を上げると柱に寄りかかって寝ていたと目が合った。 口の端を上げて緩く笑う。 「時間はお金では買えないよ。」 「聞いてかんですかィ?」 「途中からね。」 にこりと人のよい顔をして微笑むと叫び声と怒声がするのを無視して沖田の隣に腰を下ろす。 「時間はお金で買えない。」 「そんなのわかんないじゃねェですかィ。」 「買えないよ。」 「なんで?」 「時間は過ぎちゃうものだから。」 だから買えないよ。とは笑った。 「乳飲み子だろうと年寄りだろうと、それこそ聖職者であろうと罪人であろうと。時間はみんな二十四時間だ。そう決まっている。誰にも変えられない。例え大金持ちが莫大な金と名誉を用意しても誰かに分けることもね。」 長い睫毛がゆっくりと伏せられる。 ソレは何処か自分の知らない人を想っている様で。眉を寄せる。 ガキじゃないんだから。と叱ってみても皺が取れることはなかった。 「この先何があっても時間を掴む事は出来ない。掴もうとしたときには過去となって消えてしまうから。この言葉だって口にした瞬間過去になってしまうんだ。」 己に言い聞かせるような言い方に沖田はじっとを見つめる。真剣な瞳。 最近よくそんな目をする。自分の知らないの顔。 嫌だな、と思った。自分の知らない顔を見るのは嫌だ、と強く思う。 「さん。」 声を掛ける。少し遠慮がちに。でも、強く。 わ す れ な い で 俺 の こ と 。 は我に返ったように一瞬目を見開いて、それから沖田の頭をよしよしと撫でる。 「大切にしないと、ね。」 今の時間を。生きているこの場所を。 いつものように穏やかに笑うに沖田も顔を緩める。 金糸の髪が流れるようにの指を流れた。 |