高杉がマフィアとして其れなりに名を轟かせていたのは十数年も前になる。腕の良いヒットマンと言われていた。今は中学校の保険医をしている。本当は並盛中が良かったのだが人手が足りてるとかで黒曜中になった。目付きが悪いせいで滅多な事がない限り人は来ない。楽で良い。余計な人間はよく来るが。 「病人以外は入ってくんじゃねーよ。」 「おやおや、釣れませんね。」 「釣れてたまるか。」 目の前の男は大げさに肩をすくめると嫌な笑みを貼り付けたまま窓側のベッドに腰掛けた。真新しいシーツがよれる。高杉は彼を睨み付けたが効果がないのは既に知っているので溜め息混じりに煙草を灰皿に押し付けた。 「が来てたんですね。」 「忘れた弁当届けにな。ご苦労なこった。」 「学校は?」 「創立記念日。」 新しい煙草に火を点ける。机に足を乗せるのは昔からの抜けない癖だ。僕にも一つ頂けますか、テメーにやるモンなんかねェよっつーか勝手に取ってくな、アークロイヤルは結構好きなんですよ甘くて、そりゃ良かったなクソガキ、は甘いのが好きですからね、・・・・・・。黙ったまま相手を睨み付ける。男は笑ったままだ。虫唾が走る笑顔。 「まだアイツを構ってやがるのか。」 「彼女は可愛いので、つい。」 「手を引け。アイツは関係ねーだろ。」 「大有りです。彼女の将来は僕を揺るがす。」 「は世界にゃァ立たねェぜ。此処で静かに暮らしてババアになんのさ。」 「平和ボケしてますね。」 「なんとでも言え。」 今の生活に不服はない。此処は平和だ。銃戦も腐臭もしない。毎日が当たり前のように始まって当たり前に過ぎていく。穏やかな世界。しかし前の生活にも不満はなかった。むしろ誇りに思っている。本人には口が避けても言えないが、その時仕えていたボスと共に歩んできた日々は最高の時間だったと思う。それくらい坂田銀時と言う男は高杉を(そして世界中のマフィアを)惹き付けて止まなかった。オッドアイが彼を見る。さっきまでの笑みはない。 「何故世界に立つだろう人物がいて何故立たせない。世界は望んでいますよ、を。」 「世界なんざ興味ねーよ。それにお前にとっては得する事だろ?敵が一人減る。」 「・・・・・・。」 「それとも構う動機がなくなって残念かァ?」 不敵に笑うと相手は眉を少し寄せて高杉を睨み付ける。さっきとは立場が逆だ。紫煙が一定の高さまで上がって消える。 「・・・自分の道は自分で決めるさ。そう言う奴だ。俺たちが口出しする事でもねェ。」 「あの男の跡を継がせるために散々鍛え上げてきた貴方達が言う言葉ですか?」 「俺は手出ししてない。それにさせたがってるのは沖田だけだ。」 「そうには見えませんが?」 「知らねェよ。あとのやつ等は最低限の力つけさせる為に動いてるだけだ。まぁ、想像以上にの能力が優れてたっつーのもあるけどな。」 動体視力が優れているのかはもう沖田のナイフの軌道すら見えると言う。実際彼女は切り傷が少なくなった。日に日に成長していくを誰もが期待して見つめる中、高杉はじっと眺めるだけで手出しはしない。将来は彼女が決めれば良い。色濃くしていく褐色の瞳が銀髪の男を思わすほどに似てきたが彼女は彼ではない。だからあの男の跡を継ぐ必要はないのだ。火の付く音の後につんとする匂いと紫煙が昇る。隻眼の目は何処か遠くを見ていた。 「だからあまりアイツを傷付けてくれるなよ、六道。はお前の害にはならねェ。」 「・・・・・・わかってますよ。」 「ならいい。そろそろ授業が終わるぜ。」 それだけ言うと高杉は机から足を下ろし、テレビをつける。静かだった空間にバラエティ番組特有の煩さが広がった。骸が何か言おうと口を開いたが、高杉の態度は会話の打ち切りを示していたので諦める。黙ったまま背を向けると含むような笑い声が聞こえた。テレビには負ける音量で。骸からは見えない彼の瞳が蛍光灯の光に反射して猫のように細まる。 「今はごっこ遊びで良いのさ。そのうちアイツが自分の意志で決める。俺はソレに従うまでだ。瓦礫のビルでと銀時にそう誓った。」 |
マ フ ィ ア ご っ こ