好きな人が出来た。付き合った。別れた。
今、階段の隅っこで一人で泣いている。












「あーれ、ちゃんじゃーん!」


 ・・・と、思ったらとても明るい(それはそれは首でも絞めてやろうかと思うほどの)声が後ろから聞こえた。咄嗟に真っ赤な目を隠す。内藤ロンシャンの声。内藤は私と同じクラスで、クラスでも浮いた存在で女子には特にウザがられてる。同じくイタリアから来た獄寺くんとは大違い。テンションおかしいし、かっこよくないし、服変だし。挙げればいくらでも彼の欠点は出てくる。一日一回は女子の話題に乗ってるからいくらでも言える。


「どーしたのぉ?」
「(うるさい)(どっかいけバカ)・・・・。」


 しかし無神経且つバカな内藤には伝わらない。(それで良いんだ)(コイツに思考を読み取られるなんて私もバカの仲間入りじゃない)(でも複雑だ)シカトし続ける私を彼は如何解釈したのか隣に座ってきた。私は一度も顔を上げなかったけど内藤の目が私を見ているのが痛いほどよくわかる。幸い今は放課後であまり使われない階段だったから人目につかない。(別れた次の日に内藤vと大きく黒板に書かれるのだけは御免だ。)内藤は散々人の顔をじーっと見て突然 あっと声を上げた。(何だよもう!)


ちゃんもしかして別れたん?!そうでしょ?誰?俺?やーテレるなぁ!!」
(バカじゃないの!あの人がアンタみたいなウザくてかっこ悪い奴なわけないじゃん!一緒にしないで!!)


 たくさん酷いことを言う。頭の中で。本当は言ってやりたい。けれど、言わなかった。そんな事言ったってすっきりしないだとか、どんなにウザイ内藤でも傷付くだろうし傷付く顔は見たくないだとか、ただ言う勇気がないだとか、わざわざ怒るほどの価値も奴にはない、だとか理由はたくさんたくさんある。つまり自分の中でもまとまらなくて言えずにいるのだ。じわりと涙腺が緩む。


「あれ?あれ??ちゃんマジ泣き?今のはイタリアンジョークだよ!俺ちゃんのこと好きだからふったり、別れたりしないよー!!」
「(こいつ正真正銘のバカだ)」


 やっぱり言ってやればよかった。ウザいんだよ!って。少しくらいきついことを言った方がコイツの為になるかもしれない。私が一向に泣き止まないし、笑わないしで内藤はやっと私が結構深刻な悩みを抱えている事に気付いたようだ。いつものテンションを胸のうちに押し込んで 大丈夫?って深刻そうな声で訊いてきた。


「ごめんね、」
「ホントは知ってた」
「窓から偶然見えて、ごめん」


 そこまで言って内藤は押し黙ってしまった。
コイツはコイツなりに気を遣っていたらしい。


ちゃんはえらいよ」
「此処に来るまで全然泣かなくてさ、」
「俺だったら泣いちゃうもん」
「男だけどさぁ、絶対泣くよ」
「だからえらいね、ちゃん」
「頑張ったね」


 胸が熱くなる。緊張していた何かがプツリと切れてさっきとは違う涙が溢れてきた。内藤のクセに。泣かせるような事言うな。私は私なりにあの人のことが好きで大好きで愛してだっていたから、嫌われたくはなかったんだ。お昼ごはんを一緒に食べたり、校内でイチャイチャしたり、キスしたりしたかったし毎晩電話もしたかった。でもウザイ女だと思われたくなくて、彼に相応しい彼女でいたくて。それが間違いだったなんて思いもしなかった。壊れた水道みたいにだぱだぱ涙が零れる。内藤がうろたえたのがわかった。


「また何か余計な事言っちゃった?」
ちゃんごめんね、ごめん」
「俺、無神経だし気ぃ利かないから」
「すぐ思った事言っちゃって」
「でも傷付けたいんじゃないんだよ」
「元気になって欲しいんだ」


 やっぱコイツはバカだ。自分が言った何気ないその言葉が私をすごく元気付けている事を知らない。私は誰かに自分がやってきた事を認めて欲しかったのかもしれない。頑張ったね、えらいね。その言葉が欲しかった。  内藤は確かにウザくていつも空回りしていてクラスの逸れ者でバカだけど 最高にいい奴だ。

ラ フ ・ メ イ カ ー 
(お前ほどの、バカはいないけど、お前ほど、いい奴はいないよ)