傘を差したままが土方と高杉の傍に来る。
周りを囲む隊士たちは彼女の登場に唖然と見つめていた。


「土方君も高杉君も物騒やで。」

「物騒なのはアンタの方だぜ、さん。」

土方がを睨む。
は知らん顔で土方を見つめ返した。


「こいつは攘夷派の高杉晋助だ。
危険人物だって事はさんも知っているだろ?」

「知ってるわぁ。」

「だったら何で匿うんだよ!!」


は依然と土方を見つめた。


「・・・秘密や。」


土方が下唇を噛む。


「・・・・アンタには恩がある。
さんに拾われなければ今の俺はいなかった。
だから・・・・・高杉を渡せ。
こいつは危険だ。」

「危険やないよ。」

驚いたのは高杉のほうだった。
目を見開いたままじっとを見る。
の横顔は別の人のようだった。


「もし土方君が私に恩を感じとるんやったら高杉君のこと見逃してくれんやろか。」



「傷が治るまででええ。その間は高杉君も人殺しをせん。」










「そんなの呑める話じゃぁねぇですぜ。」


それはひどく冷たい声だった。
囲む隊士たちの前にいた金糸の髪の青年だ。


「こん人が人を殺さないでいられるわけねぇでさァ。
ねぇ、土方さん?」

土方は無言で頷く。
は二人を黙って見つめた後、くくっと喉で笑った。


「確かに呑むにはちぃっとばかし上手い話かもしれへんな。
じゃぁ、もし高杉君が一人でも人を殺したら



私の首も刎ねればいい。」



「なっ!」


「こん家の財産はアンタ等に譲る。十億はくだんないはずや。
そんお金で好きな物、買ぃ。」





「・・・・そんなことしてアンタに何の得があるんですかィ?」

は不敵に笑うだけで何も答えない。
重苦しい空気だけが彼らを包んだ。














「判った。」














沈黙を破ったのは今まで黙っていた近藤だった。

「近藤さん。」

土方が咎めるように目を流す。
近藤はそれに苦笑して肩をすくめた。

「これ以上話が進まねぇとが此処で首を斬りかねないだろ。
いいじゃねぇか、一度だけだ。」

お前らも良いな?

いきなり振られた隊士たちはやや口篭ったが、先ほどの
の本気を感じとってか不平を言うものはいなかった。
土方も眉を顰めるだけで何も言わなかった。

「おおきにな、近藤君、土方君。」

「だが、そいつが一回でも妙な動きをしたら・・・・さん、アンタ共々
そいつを斬る。」

「好きにしたらええ。」

静かには笑う。落ち着いた表情。
それを高杉は不思議な気持ちのまま髪の間から見ていた。
彼女がそんな顔をするのは珍しい。
ふとした時に見せる顔に似ている。でも、違う。
別の人だ。別の。
何か言いたかった。何を言えば良いのかわからなかった。
自分はただ突っ立っているしかなかった。






。」


撤退していく隊士の中。
彼女を呼ぶ声。
近藤の声。違和感があった。










「お前の所為じゃない。」

僅かに強い調子の声。

自分には何を言っているのかわからなかった。
“土方”と呼ばれた男も怪訝そうな顔をしている。
ただ彼女だけが微笑んでいた。












「それでも私の所為や。」

「・・・・。」

















ザ――――――−‐-













「高杉君。」

真撰組がいなくなった庭。
未だにそこを動こうとしない高杉にが声をかける。


「そんままやと風邪引くで。
家ん中入ろう?」




「なぁ、高「うっせぇよ!」


触れたの手を乱暴に振り払うとそのまま
彼女の着物の袷を掴んだ。


「誰が助けて欲しいっていった?!!
勝手に決めんじゃねぇよ!命賭けてんじゃねぇよ!!」


てめぇが命賭けるほど俺は出来た奴じゃねぇ。


「俺は絶対人を殺す!!てめぇが死んだって何とも思わねぇぜ?!」

俺のためになんかに命賭けんなよ。





危険やないよ



「そんなの何でわかんだよ!勝手に決めんなよ!!」


言いたいのはそんな事じゃない。
ありがとうではない。でも蔑みでもない。
もっと違う、言いたいのは・・・。
わかっている。
ただ 言葉にならない。

は笑っていた。
穏やかに。


「堪忍な。」


そう一言いって高杉の身体を優しく抱きしめた。
石鹸の香り。雨の匂い。
きりりとまた腹が痛んだ。

安心 したからかもしれない。
力が抜けていく。手から刀が落ちた。
まるで他人事だ。
意識が薄れるなか、さっき彼女が口にした言葉は
何に対しての謝罪だったのか。その答えは見付からぬまま高杉は意識を手放した。
















「・・・堪忍な。」

それはさっきとは対照的な声。