カーテン越しに空が一瞬光って地面が唸るような音を響かせる。夜の静寂を打ち破るような大雨だ。びくりとがベッドの上で震えた。続いて木の割れる音。耳を塞ぐが完璧に遮断する事は出来ない。頼れる人は仕事で此処には居なく、他の人達もそれぞれ理由があってアジトには彼女一人きりだ。不安と恐怖に押し潰される。もう一度雷が光った時、は思わず毛布を鷲掴んで部屋を飛び出した。




「どこが月の綺麗な夜だ。マジあの天気予報士殺す。」


髪を掻き上げて鬱陶しそうに己の姿を見下ろす。黒のコートは身体に張り付いて気持ち悪い。後ろを振り返れば飛段が歩いてきた箇所に水溜りが出来ていた。こう言うのにやたら厳しい鬼鮫を思い出して更に髪を掻き毟る。とりあえず風呂に入ろう。片付けはその後だと脱衣場に駆け込んだ。風呂はが新しくお湯を入れているので沸かせばすぐに入れる。しかもメンバー別にある篭の中には着替えとタオルが畳まれて入っているのだから至れり尽くせりだ。感謝感謝と思いながら湯に浸かる。


(そう言えば話したことなかったな)


秋色の髪をした少女がアジトに来たのは半年ほど前らしい。らしいと言うのは飛段が半年振りにアジトに戻ったからだ。彼から見れば最近住み着いたに過ぎない。紹介された時も へぇーふーん。で終わらせて特に興味を持たなかった。(サソリが目をかけていると言うのには驚いたが)相手も消極的なのか纏わり付く真似はしなかった。子供だからかもしれない。大人の女はダメだ。媚びるか誘うかしか能がない。(聡明な女もいるのだが彼が遊んだ女は生憎そんな女性はいなかった)その点子供はいい。色事に興味を持たないし素直だ。風呂から上がるとさっきまでのだるさや不可解さが嘘のようにさっぱりする。リビングを通れば甘い物が皿の中に小さな山を作って置いてあった。おそらくイタチ用だろう。丁度甘い物が食べたかったので二、三個拝借する。リビングを出れば後は細長い廊下だ。その両脇にそれぞれの部屋がある。彼の部屋は一番奥だ。欠伸を噛み締めながら歩くが途中で止ってしまった。心なしか顔が歪む。


「・・・・・お前何やってんだ。」


彼の先には毛布を頭まで被ったが居た。
突然声をかけられた所為で彼女は身を強張らせる。恐る恐る飛段を見上げてはすぐ伏せた。サソリ達ならその表現だけでわかるのかもしれないが居るのは彼等ではなく飛段だ。わけわかんねェ。何がしたいんだ。と、その時雷が落ちた。かなり近い。


「ぎゃっ」


あられもない悲鳴が上がる。飛び上がらんばかりに驚く彼女に流石の彼も気が付いた。は何も言わないが、毛布を握り締める仕草や怯えている様子から見て間違いない。雷が怖いのだ。


「ガキだなぁ。」


自然と飛段の口から零れた科白に、彼女はカッと顔を赤く染めた。毛布を握り締める手を強くする。そんななどお構いなしに(彼は無神経なのだ)飛段は少し黙考して、むんずと彼女の首根っこを掴み上げた。勿論驚く。わたわたと手足を動かすが気にした素振りも見せず彼はそのまま自分の部屋のドアを開けてベッドの上に放り投げた。綺麗な放物線を描いて落ちていく。一応忍の端くれだ。落ちる瞬間体勢を立て直し顔面から行くのを防いだ。が、毛布に足を取られベッドから転げ落ちる。


「どんくせー。さっさとベッドん中入れよ。」
「・・・・・?」
「雷怖ぇんだろ?だから一緒寝てやる。」


あのままほっといたのバレたらアイツ等に何言われるかわかんねーしな。欠伸を噛殺した様子でを引きずり上げると自分共々ベッドの中に入る。安心したのかうとうとし始めた彼女をぼんやり眺める。


(ちっせぇな・・・潰しちまいそう。ガキってこんなにちいせぇモンなのか?手だってこんなだし頬はふよふよだし鼻丸っこいし。こんなちっこくて生きて行けんのかな。風呂湯溜める時とか落ちたりして。ベッドから転げ落ちてたし。そんで溺れたりして。きっとコイツ泳げねーから死ぬ。その前に助けねーとマジ死ぬだろうな。だってコイツすげーちっこいし)


眠気が襲う。身近で聞こえる寝息が妙に心地良い。相変わらず雷が鳴っている。半分寝かかった状態で暖かさを感じた。子供体温と言うのか彼女の体は暖かい。湯冷めした体にはありがたかった。