カッチコッチと進む時計の針。 デイダラは長い長い溜め息をつく。今日は珍しく任務もない。普通なら散歩や昼寝などのんびりと過ごすのだが生憎そんな気分にはなれなかった。リビングのテーブルに頭を付く。そしてまた溜め息。 そんな状態がもう三日も続いている。イタチも鬼鮫もすでに無視だ。 「・・・・・・・・なぁ。」 じろりと憂鬱そうな目が向かいで茶を飲んでいるイタチを捉えた。また始まった。イタチはそう思って短く息を吐く。 「・・・なんだ。」 「もう一週間だぞ・・・うん。」 「そうだな。」 「イタチは気にならないのかい?!」 ばん!!大きな音を立ててデイダラは机を叩いた。目には少し涙が溜まっている。 「なんで旦那とが一週間も部屋から出てこないだ!!」 無学の天才 「一応はデイダラの妹だ。それなりに才能はあるだろう。」 というイタチの意見によっては暁で育てられる事になった。 それにデイダラはほっとする。知らなかったとは言え自分のたった一人の肉親だ。今まで親とか親戚とか気にしないで生きてきたし、何処で死のうが誰に殺されようが平気だと思っていた。しかし、いざを前にして彼女が誰かに殺されると思うと背筋が薄ら寒くなるのを感じた。どうしてそんな気持ちになったのかはデイダラ自身しらない。 彼女の事をその場にいなかったサソリとに説明する為再度サソリの部屋を訪れた三人だったが、入ってくるな。と部屋の前で門前払いされたのだ。 「ちょっ、旦那ぁ?」 「用件はそこで言え。」 「中にいる子供の事で話しがある。開けろ。」 「話ならソコででも出来んだろ。俺は今忙しいんだ。」 「忙しいって・・・に何してるんだよォォォ!!!」 「ちょっとは落ち着いて下さいよ。貴方はただでさえ煩いんだから。」 「お前に言われる筋合いはないね、うん!それより旦那!!」 「デイダラ・・・静かにしろ。」 「イタチにも関係ない!!!ここを開けろよ旦那ァァァァ!!!」 ・ ・ ・ バタンッ!! 「テメーら人の部屋の前でうるっせぇんだよ!!さっさと消えろ!!!」 白い肌に血管を浮き立たせてサソリが扉を開けた。扉の正面に立っていたデイダラは勢い良く開いたソレに顔面をぶつける。ぶへっ、となんとも情けない声を出してその場にデイダラが崩れ落ちた。 「いいか、今大事なところなんだ。今度邪魔でもしてみろ。テメーらの髪の毛引っこ抜いて毒薬作るぞ、コラ。」 それだけ言うとサソリはデイダラなど無視してまた大きな音を立てて扉を閉めた。 「「・・・・・・・・・・・。」」 突っ込みたい要素は色々あるのだが今また煩くすると本当にサソリが髪の毛を引き抜きかねないので鬼鮫とイタチはデイダラを引きずってその場を後にした。サソリは自分の時間を邪魔されるのを一番嫌う。彼が自分から出てくるのを待つのが得策だろう。 と、考え待つ事七日。一向に出てくる気配はない。多少は食事や風呂などに出るときはあっても時間が重ならない為か彼らは二人の姿を丸七日見ていないのだ。 「・・・変な事されてないかな、うん・・・・。」 「まさか、あの人だって幼女に手を出すほど女性に飢えてはいないでしょう。」 「でも、可愛いし、ちっちゃいし、可愛いし。・・・手ぇ出してるかも、うん。」 「・・・もう少し冷静に考えてくださいよ。」 「オイラは充分冷静だ!!ああああの貞操がァァ!!!」 「人聞きの悪いこと叫んでんじゃねーよ、クソが。」 「ぐはっ」 デイダラの背中を思いっきり蹴り上げた先には不機嫌そうなサソリの姿が。 「やっと出てきましたか。」 「お前のせいで随分と巻き添えを喰った。」 「なんだよ、俺のせいかよ。」 「「あぁ。(えぇ)」」 「・・・・・・。(こいつら)」 「それよりも子供の事だが」 「そう言えばそんな事言ってたな。おい、隠れてねーで出て来い。」 ん?と首をかしげた鬼鮫とイタチをよそにサソリが後ろを振り返った。正しくは自分の腰あたりだ。一つ遅れて小さなものがサソリの後ろから顔を出す。秋色の髪。だ。サソリに引っ付くようにしてイタチたちをおずおず見ている。 「起こして平気なのか?」 「あぁ。意外と回復力が強くてな。」 「――――!!!」 背中を押さえていたデイダラがいきなり飛び起きてを抱き締めた。 「お前何かされなかったか、うん?!どっか触られたりとか脱がされたりとか・・・・・って?」 肩を押さえて必死に問うてもは何も言わない。それどころか心なしか青ざめた顔をしている。デイダラが怪訝な顔のまま口を開こうとした瞬間、 「そのへんにしとけ。」 低い声と共にサソリがデイダラからを引き剥がすとは弾かれたようにサソリの後ろへと逃げた。小さな手はサソリのコートを必死で握り締めている。 「どうしたんだ?」 今まで成り行きを見ていたイタチがサソリに訊くと彼は曖昧な顔をしてを宥めるように彼女の髪を何度も撫でた。 「少し対人恐怖症の気があるらしい。当然っちゃぁ当然だがな。」 は何日も森の中で殺されかけていたのだ。ならない方がおかしい。 「この前はちゃんと話していたじゃないか、うん。」 「おそらくあの時は恐怖を感じられるほど気力が残っていなかったんだろう。」 「あぁ、拾われた後のことは覚えてねーって言ってたぜ。」 デイダラは一瞬何を言われたかわからなかった。そしてもう一度サソリが言った言葉を頭の中で繰り返す。すると一つの疑問が生まれていくわけで。 「・・・旦那。」 「ああ?」 顔を真っ白にしながら口を引き攣らせるデイダラ。不審そうに顔を顰めるサソリ。 「は対人恐怖症なんだよな?」 「今の所はな。」 「んでもってオイラたちは知らない人なわけで。」 「何が言いたい。」 「つまり、旦那以外は覚えてないと。」 「そう言うことになるな。」 「「・・・・・・・・。」」 「ギャーーーー!!!!!!!!」 自分の事を思えていないのが余程ショックだったらしくデイダラは大声を上げて発狂する。芸術的に結った髪の毛も掻き毟りすぎてぐしゃぐしゃだ。 「そういやがどうとか言ってたな。」 「ああ、その子供を今後どうするか話し合った。」 未だ発狂するデイダラを三人は軽くスルーして本題に入る。だけがびくびくしながらサソリたちとデイダラを交互に見つめていた。 「その結果ひとまず生かすことにした。」 「今から教育すれば忍びとして役に立つかもしれませんしね。」 「出来がよければ将来誰かの部下にでもすればいい。」 「その必要は無ぇよ。」 サソリが口元を歪める。対するイタチと鬼鮫は怪訝な顔だ。さっきまで騒いでいたデイダラも不思議そうな顔をしていた。 「如何いうことだい、うん?」 「そのままの意味さ。」 「誰かの部下にってヤツがどうかしたんですか?」 「ククッ・・・。」 堪え切れない笑いを喉に押しこんで笑うサソリはの頭に手を乗せて実に愉快そうにイタチたちを見た。 「コイツは俺の弟子にする事にした。」 ・ ・ ・ ・ ・ 「「「は?」」」 「ちょっと待ってくれよ、うん!を旦那の弟子ぃ?!!」 「貴方がこの子供を教育するんですか?!」 「だいたい子供は嫌いだと言っていただろう。」 「そ、そうだぞ!!ガキなんて手間がかかるだけでウザイだけだって言ってたじゃねーか!!」 「そんな風に思っていたのかよ、デイダラ。」 「へ?」 にやんとサソリが笑う。意地の悪い笑みだ。 周りを見渡せば我関せずなイタチとあーあ、やっちゃったよと言う顔をした鬼鮫、そして俯いたままの。その時デイダラは自分がはめられた事を知った。 「違っ。オイラが思っていたわけじゃないって!!、違うからな!!」 「そういえばこの間は邪魔だと言って子供を殺していたな・・・。」 「余計な事を言うなよイタチ!!」 「いいか。アイツにはあまり近づかない方がいい。俺がいるときはいいけどな。」 「いい加減なこと言うなよ!オイラはだけには優しいの!!!」 殺したりなんかしないの!! 半ば泣きそうな顔で言うものだからさすがのサソリとイタチも小指の甘皮ほどの罪悪感を感じた。も不安そうにサソリを見上げる。よくよく考えてみれば顔も知らない人たちのところへ突然連れて行かれ、冗談でも自分を殺すかもしれないという人を目の前にすれば誰だって恐怖が湧く。 「ただの冗談ですよ。あなたは気にしなくていいことです。」 の不安にいち早く気付いた鬼鮫がそっと言う。それからイタチとサソリを呆れ顔で眺め、良い年した大人が子供を不安にさせてるんじゃありませんよ、まったく と溜め息をついた。彼らは少しバツの悪い顔でいる。 「とりあえず話を戻しますが本当に貴方の弟子にするんですか?」 「あぁ、中々いい腕してるからな。」 「?」 訝しげな顔が並ぶ。もう一度サソリが喉で笑った。 そしてコートの中からある小瓶を取り出すとイタチに投げて寄越す。眉を寄せたままソレを受け取ると小瓶の中には透明な液体が八割ほど入っているのが伺えた。 デイダラがイタチの後ろから覗き込んで なんだぁ と詰まらなそうに口を尖らせる。 「旦那の毒薬じゃないか。にしても今回はえらく調子が悪いな、うん。」 白い霞が出てるや。とイタチから奪い取って小瓶を揺らす。確かに少し濁っている。 毒薬は無色無臭が一般的だ。わざと色をつける事はあるがソレは例外で、通常は透明な色をしている。敵に毒だと気付かれないためと言うのもあるが、それ以上にその毒が何であるかを知らせる手がかりを与えない為だ。 そのため、透明度が高ければ高いほど良いとされている。 しかし桁外れの根気と集中力を強いられるので本当に良質な毒を作る人は両の手しかいない。以前作ったデイダラの毒薬などマーブル色だ。イタチですら白い靄がかかってしまう。 透明度が高ければ高いほど良いとされる中、サソリの作る毒薬は水よりも澄んだ色をしている。 「ククッ」 「?」 尚も笑うサソリにデイダラは勿論の事、イタチも鬼鮫も怪訝な顔をした。 「まさか四日でそいつを作るとは思わなかったぜ。」 「はぁ?」 「その子供が作った、と言う事か?」 「はぁ?!」 大きな声にが肩を震わす。 これでもかと言うほどにサソリのコートを握り締め、ぎゅっと目を閉じた。 小さな手が可哀相なくらい震えている。じろりと三人に睨まれてデイダラは慌てて口を噤んだ。 「、そんな怯えんな。・・・・大丈夫だから。」 こくこくとサソリに応えようと必死に頷くが、やはり体は言う事を聞かずの体は震えたままだ。吐き出す息すら痛々しい。 森の中で遭った忍はみんな殺気立っていた。自分を殺そうと笑っていた。 そう考えれば此処に居る人たちは殺気すら感じられない。しかし、此処に居る人たちは森で遭った人たちよりも簡単に、平気で、人の命をとるだろう。そんな気がする。 自分もいつどんなとき殺されるかわからないのだ。もしかしたら目の前の黒髪の人が言ったように邪魔だからという理由で殺されるかもしれない。 そう思うとどうしようもなく体が震える。はサソリを信用していたが、目の前の人達を信用してはいなかった。 「今日のところはもう部屋に帰した方がいいんじゃないですか?」 見かねた鬼鮫がをちらりと見てサソリに言う。デイダラが不満そうな顔をしたが鬼鮫はあっさり無視する。 「鬼鮫の言うとおりだ。このまま此処に置いても人に対する恐怖が増すだけだろう。少しずつ慣らしていけばいい。」 「じゃぁ、オイラが連れて行くよ、うん。」 「・・・今までの話を聞いていましたか?サソリさん以外慣れていないんですよ。」 「旦那ばっかりずるい。オイラだってに触りたい。」 「アンタ、ガキですか。まったく、話が通じない人ですねぇ・・・。」 鬼鮫は額に手をやり、深く溜め息をついた。なんだよ、と隣でデイダラが騒いでいる。向かいを見れば今まで居たサソリが消えている。も居ない。横目でイタチを見ると、ふいと目を逸らされた。また、溜め息が出る。 デイダラはまだ気付かない。 |