正義だとか悪だとか、正しいとか間違っているとか、
どんなに言葉を飾ったとして自分が犯した罪を消すことなんてできない。


今日、私は人を殺した。








約束なの。
太い根に縮こまるようにして座る少女。小さな指が心許なさ気に膝を抱き締めていた。折り重なる葉が彼女を雨から守っている。


「待ってろって言われたの。」


サクラは うん、と相槌を打った。


「待ってるって言ったの。」


小さく小さく呟いて彼女は顔を膝にうずめてしまった。泣いてるのかとサクラは思ったが鼻を啜る音も肩を震わす仕草もない。ただ、体を更に萎縮させた。ソレが一層彼女を頼りなくさせて、サクラの心臓を鷲掴みにする。


あいつには手を出すな。
傀儡になりきれなかったと哂う彼が最後に言った言葉は実に人らしい台詞だった。
核を刃物で貫かれても尚立っていたその人。チヨ婆様が一瞬驚いた顔をしてそれから悲しそうにうなずく。自分はただ立っているしかなかった。


「人を待つのも待たせるのも嫌いだからもうすぐ帰ってくるはずなんだけど、」


ドクリと心臓が大きく波打つ。血の気が引いて全身の毛穴から汗が噴出した。知っているんだ。この少女は。


「まだ、帰ってこないの・・・・・・。」



彼が死んだこと。






ドクン。


また鳴る。


ドクンドクンドクンドクン


少女の指がサクラの手に触れた。頼りなさ気な指がそっと。サクラの手を掴む。びくり。おかしいぐらい肩が震えた。心臓の音がやけに煩い。彼女は。知っているんだ。
知っているのに、







「ねぇ、なんでサソリさん帰ってこないの?」





訊かずには言られないんだ。


(昔の私がそうだったように。)


サスケの顔が脳裏を過ぎる。なんで。そう何度も問いかけた己が。フラッシュバック。思わず少女を抱き締める。小さな体は思った以上に不安定で小さかった。でも暖かい。生きている。


全てが停止する瞬間彼が呟いた。大切そうに。


 と。


降りしきる雨。その先に見覚えのある金色の髪。ナルトだ。静かに、まるで雨と同化している様にサクラたちを見ている。しかし、その腕は赤かった。


「約束なのに。」


腕の中でが呟く。涙に潤んだ声だった。


「サソリさんもデイダラさんもイタチさんも鬼鮫さんも帰ってくるって・・・。」




「ねぇ、なんで?約束なのに。指切りしたのに・・・・。」


抱き締める力を強めるとは悲鳴にも似た声で なんで、とうわ言の様に何度も呟いた。
幼いこの少女は自分だ。――――いや、この少女を自分のようにしてしまった。



小さな体をもっともっと小さくして待ち続ける少女。
正義だとか悪だとか、正しいとか間違っているとか、
どんなに言葉を飾ったとして自分が犯した罪を消すことなんてできない。


今日、私は人を殺して自分の身とチヨ婆様を守った。ナルトは大切な友達を取り返すために人を殺した。





人を殺す覚悟はあったのに殺してしまった後の覚悟はしていなかった事に今更になって気付いた。


果たされなかった約束