「ケホ、ケホ・・・」
「どうした、風邪か?」


いつものように傀儡の作り方を教えているとが咳をした。彼女はふるふると頭を振って否定する。見たところ具合が悪いようには見えない。顔色も普通だし呂律もちゃんと回る。ただ、朝からずっと空咳をしていた。それに引っ掛かりを覚えたサソリだったがの額に手を当てても平熱だったので、気のせいかと作業を続行した。




「コートか何か買った方が良いんじゃないですか?」


食事の最中も咳をするにデイダラがどうしたのかと訊いたところ、サソリが朝からその調子だと返し、寒くなってきているから何か対策した方がいいなとイタチが呟いたので、しばらく考えて鬼鮫がそう言った。彼女は 大丈夫ですから。と言うがまた咳をするので説得力はない。ので、食事が終わったら速攻で木の葉に行く事になった。
行くのは当然。そしてデイダラとサソリだ。彼等曰く(コイツ)(旦那)が選んだら大変な事になるから、らしい。今もを間に火花が散っている。芸術家と自らを称する二人は美的感覚が関係するとたちまち仲が悪い。鬼鮫とイタチはそんな彼等をどうか木の葉で目立つ事はよしてくれと願わずにはいられないが、彼等の願いは木の葉について早々打ち砕かれる事となった。




「おいおい何だそりゃぁ?そんなもんに着せる気か。」
「旦那のじゃの可愛らしさがでないだろーが、うん。」
「んだと」
「何だよ」


まさに一触即発。殺気混じりの会話がの頭の上で織り成されている。困った事になった。二人に見えないように小さく溜め息をつく。里に着くまでの間は冷戦を決め込んでひたすら静かだったと言うのに店に着いた途端これだ。いくらいつものコートを羽織ってはいなく、暁と言う組織がそんなに世に知れ渡っていないとは言え上忍が来れば素性はばれてしまう。はカカシに会っている。こんな所をうろついているのがばれれば今度は見逃さないだろう。しかし二人はそんな心情などお構いなしに毒の入った会話を続けている。困った顔のままちらりと周りを見てはまた溜め息をついた。


「あら、見て。綺麗な子達ね。」
「子供もいるわよ。」
「親子かしら。」
「それにしては若いわよ。」
「兄妹かもしれねェぞ。」
「そういえば右の男の子に似ているわね。」


などなど。老若男女問わずに店の前ではわいわいと何やらギャラリーが出来てしまっている。店の主人は微笑ましそうな顔をしているし、若い女性のお客は頬を染めてキャッキャしてるし。平和だ、視線だけをあさっての方に向けては咳をした。


「ソレにこのマフラーわ合わねェだろ、バカ。」
「センスのない旦那は黙ってろよ、うん。」
「テメーがセンスねぇんだろ。だいたい何だその色は。」
「可愛いじゃん。女はピンクって決まってんだぞ、うん。」
「っは、どっかのバカの頭ん中じゃあるまいし。」
「冷酷非道の旦那を表している青色なんてには似合わないね。」


ヒートアップしている会話にこのまま彼等の傍にいたら間違いなく意見を訊かされてよりいっそう困った事になる、とさり気無く距離をとる。そして初めて商品に目を向けた。しかし頭がぼーっとしてそれどころではない。咳は段々酷くなる。目を開けているのも正直辛い。久しぶりに外に出て疲れたのかなとたいして気にせずに店内を見る。するとギャラリーの後ろから見知った顔が覗いた。あっ、と咄嗟に隠れようとしただったが隠れる前にばっちり目が合った。相手はニコリと笑う。こっちは苦笑いするほかない。


「買物?」
「あ、う、はい。」


するすると人並みを潜り抜けてカカシはの頭を撫でた。どうしようかと考える。思い切って 今日は・・・、と絞りきった声で問うと あぁうんなにもしないよ、と予想外の答えが返ってきた。驚く彼女をよそに彼は 一人出来たの?と問いかける。


「ううん。」
「もしかして暁の」
「・・・でも、今日は買物で、その、危害を加えに来たわけでは・・・」
「そう言い切れる?」
「そ、れは・・・・だけど、約束、した、し・・・。」


眉をハチの字に寄せて俯いた彼女にカカシは諦めにも似た顔で そう、と呟いた。にとって約束はとても大切なものである事をカカシは知っている。そして彼女を育てている暁も重々承知だろう。


「それでその人たちは何処にいるのかな。」
「あ・・・」


戸惑った顔だ。ちょっと傷付く。信用しろと言う方がおかしいがそれでもやっぱり傷付きはする。カカシは内心落ち込むがそんな姿は見せず笑顔で 教えられない?と訊いたら彼女は慌てて そう言うことじゃなくて、と顔を上げる。なんとも言えない顔のままがちらりと視線を左の方へ向けた。うん?と首を捻ってそちらを見ると・・・


「ピンクっつったらピンクなの!んで白の毛皮付きコート!!」
は色が白いから濃い方がいいんだよ!青の黒の毛皮付きコートだろォが!!」
「ピンク以外何が似合うって言うんだ、うん?!」
「何だって似合うに決まってんだろ、クソガキ!」
「当たり前じゃねーか。でもピンクが一番似合うの!!」


そら戸惑った顔もするわ。
掛けてやる言葉もなくカカシは哀れんだ目でを見る。しかし、心の中ではオレンジの茶の毛皮コートだなとか思っていた。更に彼等の話は芸術云々にまで発端し、最早収集の着かない話となっていく。ギャラリーのテンションも上がっていき果てにはデイダラやサソリの意見に賛同する人々まで出てきた。


「ケホ、ケホ・・・・」
「風邪?」


傍観していたカカシが訊ねるとは困った顔をする。心なしか顔が赤い。声も何処かおかしい。ちょっとごめんねと言って額に触れようとしたそのときだ。ふっと彼女が目を閉じて力なく膝から崩れ落ちた。


?!!」


咄嗟に体を支えた為何処かを怪我することはなかったがぐったりしている。争っていた二人も異常に気付いたのか慌しく駆け寄ってきたところでの意識は途絶えた。








「・・・・・ん・・」
「気付きましたか?」


ぼんやりとしたまま自分を覗く強面を見つめる。彼は短く息を吐いての額に乾いたタオルを乗せ、その上に凍りに入った袋を乗せた。タオル越しに冷たさを感じる。心地良くて目を閉じた。しかし何故自分は此処に居るのだろう。確か木の葉の里に居たはずだ。の疑問の顔に気付いて鬼鮫が倒れた彼女をサソリが抱え、デイダラの鳥でアジトまで戻ってきた事を説明する。


「明日まで絶対安静ですからね。」
「でも、今日はイタチさんが修行に付き合ってくれるって、」
ダメです。
「・・・・はい。」
「いい返事ですね。さあさあもうお休みなさい。」


私生活で鬼鮫に逆らうべからず。暁での暗黙の了解だ。おずおずと目を閉じる。体力が低下している所為かすぐに眠りに付いた。ソレを確認して鬼鮫は部屋を出る。廊下ではデイダラとサソリがウロウロしていた。鬼鮫が出てくるのを見ると二人ともいっせいに彼を睨み付け、またウロウロする。そんな彼等を半眼で見つめ彼は今夜の夕食を作るべく台所へと向った。が居た部屋は鬼鮫の部屋だ。そしてその戸には『デイダラ、サソリ入室禁止』と言う張り紙。具合の悪い彼女をほったらかしで芸術云々で言い争っていた二人に対しての罰だ。
私生活で鬼鮫に逆らうべからず。これは暁メンバーにも有効なのである。

か ぜ っ ぴ き