この世界が『悪者』と『善者』とに別れているとして どちらが【正義】かなんてそう簡単に決められるものではない。 『善者』から見て『悪者』は【悪】であり改正しなければないらないモノだが、 『悪者』から見て『善者』は【悪】であり倒さなければならないモノだ。 つまり【正義】とは己の信念と同義語である。 境界線 ピチャー・・・・ン 水滴が地に落ちるのがやけに大きく響く。 暗がりで薄汚いソコでは壁に背を預けていた。 しばし長い間此処にいるため視野に関して不便はない。 聴覚も鋭くなっている。 はゆっくりと瞳を閉じた。 此処は陰陽殿の地下迷宮。 お前に出来るか? 無表情な顔に少し心配そうな表情を浮かべそう訊いたのは吹雪だった。 脇息に肘をもたせ、を真っ直ぐに見つめて。 その脇でひしぎがやはり不安そうな顔で立っている。 何も貴方でなくてもいいのですよ。 そう、自分じゃなくても良いのだ。 目の前の二人はに強制はさせない。逃げる事はできる。 出来ないと答えればいい。ひしぎの言葉に甘えればいい。 そうすれば己の手に掛けなくて済む。 それはにとって幸せな事だ。悲しいが辛くはない。 は一度目を閉じて、再び開いた。 重い口が開く。 ピチャー・・・・ン 雫の落ちる音。 それに混じって足音が聞こえた。 は緩慢な様子で瞳を開く。 カタカタと揺れる刀に気付いて彼女は微かに笑った。 「狂、俺は大丈夫だよ。」 優しく柄を撫でてやると震えはピタリと止り、代わりに心配そうな男の声が聞こえた。 「・・・・ごしゅじん無理すんなよ。」 「無理じゃないよ。怖いけど。」 「・・・・。」 「何人も人を手に掛けたけどこんなに怖いのは初めてだ。」 「あいつ等は強制はしなかっただろ?今ならまだ間に合う。・・・戻ろーぜ。」 それには力なく笑い、首を横に振る。 「それは出来ないよ。」 「怖いんだろ?」 「怖いさ。でも、」 息を短く吸って前を睨み付ける。 それは本当に正しい事なのか? 浮かぶ疑問を抑えつけては唸った。 「やらなければならない。」 けじめをつけなければ。 自分にとっても相手にとっても。 二人分の足音が近づいてくる。 「・・・斬るのか?」 「場合によっては、ね。」 は帽子を被りなおし、壁から背中を放す。 少し霧のかかった中で相手の驚いた顔が見えた。 「?」 彼女は静かに笑う。 「そうだよ、螢惑。」 (どうか越えないで。キミを殺すのがとても怖いよ。) |