美しい人よ また会える日が来るだろうか たくさんの花を抱えたを見たのは偶然だった。危うげな足取りでふらふらと歩く。「何してるの?」が瞳に雲雀を映した。 「葬式の準備。」 「着いたよ。」 エンジンを切って雲雀は彼の後ろに乗っていたを振り返った。半ば花に埋もれるようにして抱えている彼女が顔を上げる。ぼんやりとした双眸の色は相変わらずで、雲雀の後ろを一心に見つめていた。静かに流れる水音と煌く光。コンクリートで舗装されるほど大きくないソレは人間の手が加えられる事がない。ほど良い長さに育つ草花が風に揺れる。 「ちゃんと海に繋がってる?」 「さぁ、繋がってるんじゃない?一応それなりの川なんだし。」 欠伸一つで雲雀が適当な回答をする。は彼に非難染みた視線を送ったが本人は知らん振りだ。川の傍で腰を下ろして寝転ぶ姿は黒い猫のよう。とりあえずも隣の腰を下ろす。人の手が入っていない為か川の水は透明度が高い。川の底にある石の大きさも色も丸見えだ。 「それにしてもそんな大量の花、何処で手に入れたの?」 「近くの花屋。本当は彼岸花とか菊が欲しかったんだけどなくて・・・。」 「普通売ってないよ。――って言うか、よくそんなに買えたね。」 「全財産使ったもの。」 「・・・・・バカじゃないの。」 なるほどそれなら納得がいく。綺麗な包装紙に包まれた花束が五つなんて千円、二千円で買えるものではない。(しかも一つ一つの花束が大きい) 「別に欲しいものとかないし、今日は特別だから。」 「ふぅん。で、ソレが今日の主役?」 無意識に骨の粉が入った袋を撫でている。雲雀は言い当てられて驚いている彼女を無視すると花束から一本、花を抜き取った。白い小さな花がついている花。確かカスミ草とか言う花だ。一、二回弄ぶと川に投げ込む。は何も言わない。最初から川に流す為に買ったのだ。雲雀が振り向いた。吊った目が三日月形に細まる。猫のみたい。 「仕方がないから僕も手伝ってあげるよ。」 美しい花が流れる。まだ綺麗な色のまま少しずつ流されていく。まるで“花流し”だ。花を流す雲雀の横でが粉の入った袋とフゥ太と折った船を取り出した。そっと小さな袋を船に乗せる。花の流れは止らない。 「Arrivederci」 名前も知らない美しい花の群れ。透明な川。 船が一隻、花の川を渡っていく。 |
さ よ な ら 、 ニ ー ノ