人類が未来に強い羨望を感じてやまないのは起こりうる未来を感知できないからだ。 無知だからこそ憧れる。所謂無い物強請り。未来は希望も絶望もある。知らなければいい事だってある。そう思うと自分の持っているこの“力”は何の役にも立たない。一喜一憂する感覚も麻痺し、そのうち何も感じなくなった。生きた心地がしない。しかもその“力”は不定期であり(それでも最近はコントロール出来るようになってきた)常に世界は過去であり、同時にリアルタイムでもあった。わけがわからない。 骸たちは彼女の能力を随分と買っている。 彼女はこの能力を嫌っていた。すぐ先の未来を“視れる”人なんて早々いない。化け物だ。がそう言うと そんな事言ったら此処のいる人たちみんな化け物ですよ、と骸がニコリと笑った。確かにクラリネット吹いて爆発させる人も重い鉄球を片手で振り回す人も動物に変形(?)する人も毒針ヨーヨー持ってる人も殺人好きの双子も鳥の調教がやけに上手いあの変態も人間ではない。形は人でも心は違うんだろう。笑ったあの男は地獄をぐるりと一周して六道輪廻とか言う変なものを身につけたらしい。しかし、彼等は彼女の言う“化け物”とはやはり違う。彼等は他人或いは自分でソレを身に付けたのだ。生まれつき呪われた自分とは違う。 良くも悪くも“視る”のは好きじゃない。だから出来るだけ“視ない”ようにしている。それでも“視える”ときが多々ある。“視る”のではない。“視える”のだ。溜め息をついてはゴロリと横になった。リビングのソファがぎしりと軋む。ソファの下で千種が本を読んでいる。他は仕事だ。点けっ放しのテレビから知らない映画がやっている。今時珍しい白黒映画。画像が悪い。別に観ているわけじゃないから困らないが目障りだ。ちらちらと動くソレをつい追ってしまう。 テレビには二人しか出ていない。多分男女だ。じっとしている。面白くない。電話が鳴った。男が取る。セールス電話で男が舌打ちをした。女はだんまり。また電話が鳴った。画面が変わって郊外の風景。携帯を片手に一人の男が歩いている。顔がわからない。彼は黒いコートを着ていて 終わったから帰ると囁いていた。詰まらない。面白くない。わけがわからない。ごろりと寝返りを打つ。下にいる千種は動かない。 「千種。」 「何。」 「観てないなら消して。」 「は?」 「テレビ。」 「・・・・・・・・・最初から点けてない、けど。」 しんとしたままのテレビ。画面には何も映っていない。千種の気配が張り詰めたのがわかった。溜め息をつく。また“視て”しまった。“視える”時はいつもそうだ。新聞やテレビや何かを媒介としてふとした場面が映る。些細な会話や仕草。時には生死を彷徨うような事件。どうでもいい。自分には。なのに“視て”しまう。千種が何か言いかけたのと同時にプルルと電話が鳴った。は寝転んだままだ。 「その電話は取らない方がいい。二回目の電話はあの人から。仕事が終わったからすぐ帰るって。あぁ、それと」 引っかかったのは黒いコート。今日出ていた時は白だった。 「コートは洗っても使い物にならないよ。」 |
キ リ ス ト の 兄 妹