賑やかな日曜日の繁華街。 ソレを鬱陶しげに眺めて雲雀は溜め息を洩らす。 アーケード内にある料理店の壁に寄りかかって雲雀は苛立たしげに眉を寄せた。通り過ぎる者はそんな彼の様子にびくびくしながらそそくさとその場を立ち去る。彼の顔と腕の腕章はこの地域では有名だ。並盛中の風紀委員長だとかヤの字と繋がっているとか並盛の支配者だとか。嘘か本当かわからない噂だが、あながち的外れとも思えない。雲雀恭弥はそんな雰囲気を匂わせる男である。 ふぅ、とまた息を吐いた。 人込み、人込み、人込みで気分が悪くなる。雲雀は人込みが嫌いだ。 噛み殺したい衝動に駆られて外に出たはいいもののあまりの多さに逆に気分が萎えた。しかし、だからと言って何もせずに帰るのは癪だ。悶々とした気持ちのまま此処にいること一時間。さすがに何もかもがどうでも良くなる頃である。斜め向かいの店の前で男が二人の女に言い寄られているのを眺めるのも飽きてきた。いい加減帰ろうかと思うのだが、暑さの所為で体は動くのを嫌がる。三回目の溜め息を吐いたときだった。誰かが雲雀の腕を掴んだ。そしてそのまま移動を促すように彼の腕を引っぱる。後姿からして女だ。細い腕をしている。なのに引く力は強い。引きずると言う方があっているのかもしれない。さっきまでいた料理店から二、三軒離れたところで手は放されその人物が振り向く。 確かに女だった。雲雀と同じくらいの年齢だろう。色素の薄い髪がぴょこぴょこ軽く跳ねている。長めの前髪の所為で片目しか見えない。タンクトップにカーゴパンツと一見人込みに溶け込んでしまうような容姿の彼女はしかし、確かに異質だった。 「・・・何なの?」 彼女は黙ったままだ。黒い目が雲雀を億劫そうに見つめている。印象的なのは身体の細さだ。病的な程細い。そして白い。雲雀も肌は白い方だがそれに輪をかけて白いのだ。全体的に線や色が薄いのに陰鬱な瞳だけが黒い。ふいにその目が雲雀から後ろに移る。反射的に雲雀も振り返る。その瞬間、店で爆発が起こった。二、三軒後ろの。料理店。雲雀が寄りかかっていた丁度その場所で。その光景に雲雀はしばし言葉を失う。口が渇いた。言いたい事が出てこない。君は、と呟いた雲雀のソレに覆い被るように彼女の後ろで 、と呼ぶ声が聞こえた。見ればさっきまで二人の女に言い寄られていた男がにっこりと笑って立っていた。彼女の肩がびくりと跳ねる。 「探しましたよ。さぁ、帰りましょう。」 男は雲雀の存在に気付かないのかと呼ばれた彼女の手首を掴む。彼女は一度振り払うような仕草をしたがすぐに大人しくなった。傍目にはわからないがかなりの力で握られているのだろう。白い細い指先が痙攣を起こしている。 「待ちなよ。」 「何ですか?」 歩き始めようとした彼は今やっと気付いたとでも言うような様子で雲雀を振り返った。青と赤のオッドアイが爛々と光る。いやな目だ。蛇に似ている。彼女は俯いたままだ。 「その子は・・・一体何なの?」 「君には関係ないことだ。」 男の瞳が笑むように細まる。ぞわりと産毛が逆立った。この男の全てが気に入らない。しかし、反論する言葉を雲雀は持っていなかった。男は鬱葱と微笑んで人込みの中へ彼女と一緒に消えていく。太陽が暑い。なのに背筋が薄ら寒かった。最後に振り返った男の瞳は 湖の底よりも暗く虚ろで、それは確かに嫉妬の目だった。 |
神 様 を 攫 っ た 悪 魔