「なんれ此処に?!」
「・・・M.Mに任せたはず、」


困惑気味な犬達を彼女は責めるように見つめる。非難めいたと言うよりは睨みつけてると言った方が当て嵌まる目つきだ。途端に彼等はあぬほうへと目を逸らした。そんな三人の様子にリボーンは首を捻る。他の面々も怪訝な表情をして成り行きを見ていた。
実は骸たちとツナたちが対戦した時は直前に睡眠薬を盛られ、後で落ち合う事になっていたホテルで眠らされていた。骸は彼女が戦闘に加わるのを極端に嫌う。(彼女にとっては面白くない。守られてばかりはイヤなのだ)特に大きな抗争には部屋に閉じ込めておくほどだ。(脱獄の時に彼女が生死を彷徨ってからは輪をかけて徹底し始めた)その為、稀なる能力を持っているにも拘らずマフィアに攫われる事も監禁される事もなく生きてこれた。
リボーンが彼女を知らないのも偏に骸たちが今まで隠し続けてきたからだ。勿論その前に未来を視てもらうが、あの日に限って骸は彼女から未来を訊く事無く強制的に眠らせてしまった。“自分を誇大しない方が良い”彼女に出合ったときに言われたその言葉がこの時になって現実になるとは思わなかったのだろう。リボーンが沈黙を守り抜く骸へと視線を寄越す。


「誰だ。」
「・・・・君たちには関係ない。跳ね馬、何故を連れてきた。彼女は部外者だ。」
「跳ね馬とは取引をしたよ。取引の仕方は貴方が私に教えた事だ。」
「マフィアとの商談でその能力は使うなと言ったはずですよ。」
「骸が、悪い。」
「っ!」


いきなり名前で呼ばれて骸は目を見開いて押し黙った。名前を呼ばれたのは夢以来。固まったままの彼に痺れを切らしてはすたすたと足を進める。ヴァリアーとチェルベッロの帰った体育館は広く、ヒールの音が随分と大きく聞こえた。おどおどした様子はない。真っ直ぐ骸を睨みつけて歩く。カツリ、と歩みが止った。骸の目の前。一文字に引かれた口を不服そうに歪める。


「貴方はいつも自分勝手だ。勝手に放り込んで勝手に置いていく。戦う覚悟はもう出来ていたのに。」
「・・・それでも、巻き込みたくなかった、」
「だったらあの時通り過ぎてれば良かったんだ。私を放っておけば。そうすれば私もこの呪われた力で悩む事無く逝く事が出来た。」


骸の表情が陰る。呪われた能力、彼女は常にそう呼んで自分の能力を嫌悪していた。可能性を予測する占い師はいくらでもいるが、一つの未来だけを言い当てる存在はいない。その才はおよそ神の領域。侵す事の出来ない神の力。しかしソレは同時に人間離れした力だ。知る必要のない未来に己の心が病んでいく。人間が持っているのは大きすぎる力。それは最早呪いの類だ。
オッドアイを長い睫毛が隠す。彼女を独り占めしたかった。“神”ではなく“”を。その為に心を枯らせてまで生き永らせて、彼女にとって涙すら出ないほどの苦しみだとしても裏世界に鎖で繋いだ。歪んだ愛情である事は知っている。


「わかってます。この世界に引きずり込んだ事、歪んだ感情で縛った事、全て僕が悪い。」
「・・・。」
「だから手を放した。勝手だと思いますがこれ以上道連れにして苦しませたくない。もう自由ですよ。何処に行っても、何をしても。でも、出来れば生きてください。それだけが、」
「鈍感」


ぼそりと言われた一言に彼は言葉を止めて目を丸くする。同時に彼女の睨みが強くなる。犬と千種は溜め息。自分たちの主は此処って時に酷く抜けている。それは彼女の同じなのだが・・・。


「私は貴方を許さない。一生かけて償ってもらう。」


はい、と答えようとして骸が止った。頭の中で彼女の言葉を復唱する。思わず流しそうになった。如何とっていいのかわからず、戸惑うとの顔が真っ赤になった。だから、と呟いては少し汗ばんだ手で自分の服を握る。






「夢であんな事言ったんだから、ちゃんと責任持てって言ってる、の!」




言い切った瞬間、軽い眩暈が起きた。酸素不足のような感覚。肩で息をしながら骸を伺って、ぎょっとする。多分自分以上に真っ赤だ。が、すぐに抱き締められたので定かではない。


「そんなこと言うと死ぬまで放したくなくなる。」


骸が彼女にだけ聞こえるように苦笑混じりに囁く。顔が熱い。恥ずかしくて逃げたくなる。しかしぎゅっと目を強く閉じては答えるように、彼の服の裾を握った。

フ ィ ナ ー レ に 愛 を 込 め て