あの人は最初っから嘘吐きだった。


繁華街。ネオンが夜を取り巻いて輝いていた。その眠らない街の隅っこでは小さく身を潜める。裸足の足が冷たかった。手に息をかける。息は空気に白く溶けてゆくだけで、すぐ冷たくなった。それでも何回も息を吹きかけ身を縮める。ソレしか出来る事がなかったからだ。
には記憶がない。気付いたら此処に居て、体を小さくさせていた。此処が何処なのか、なぜ此処に居るのか、誰との間に生まれたのか。まるで生まれたばかりの赤子のように何も知らず、唯一知っているのは名前だけだ。それでも誰が名付けたのかは知らない。当たり前のように自分の存在を証明しているその名を彼女は小さく呟いた。眠るわけにはいかない。目を閉じるとこの街の記憶や未来が流れ込んでくる。そして街の記憶や未来から更に大勢の人間それぞれの記憶がいっせいにの脳へを送り込まれ割れそうに痛い。


サクサク


砂利の踏む音。こっちに近づいてくる。は息を潜めて“何か”がこの通りを抜けるのを待った。サクサクサク。膝を抱いて顔を埋めて一心に どうか気付かずに行ってくれ、と願う。殴られるのはイヤだ。痛いことは嫌い。殴られた記憶なんてないはずなのにそんな事を思うのは何故だろう。サクサク、サク・・・・。歩く足音が止った。の目の前で。


「こんな所に居ると死んでしまいますよ。」


男の声だ。のろのろと顔を上げる。其処には自分と変わらない年の少年が立っていた。青味がかった黒髪に青と赤の瞳。綺麗な少年だった。にこりと品の良い笑みを浮かべる。けれど優しさは微塵もない。冷たい、嘲笑を含んでいた。不意に望まない能力が彼の記憶を勝手に探る。エストラーネオファミリー、実験、犬、北イタリア、六道、千種、裏切り、ランチア、マフィア。頭が痛い。顔を顰めて頭を押さえると上から どうしました、と少年の声がかかった。


「・・・あまり自分の能力を、誇大しない方が、いい」
「面白いことを言いますね。占い師にしては随分と質素なナリだ。」
「・・・・もういい、さっさと帰れ。私に構わないで。じょうしまけんとかきもとちくさが貴方を待っている。」
「・・・・・・・・・何故その名を?」
「うるさいさっさと帰れ。」


睨み付ける。彼と話すのはもうイヤだ。顔も見たくない。きっと近い未来にこの男は自分の何かを変える。自分の全てを奪って行く。痛む頭に一瞬視界が霞んだ。はぁ、と大きく息を吐くと白い霞がすぐ空気に溶けていく。視線がいつの間に下がっていた。頭上で笑う声。顔を上げようとしたら体が行き成り浮いた。突然の事で理解できずにいるとさっき頭の上で聞いた男の声が耳元で聞こえた。前を向けば男の端整な顔が近い。抱き上げられたと理解するのに時間がかかる。


「軽いですね。ちゃんと食べてるんですか?」
「・・・・はなせ、」
「ダメですよ。君はこの先役に立つ。」
「良い迷惑だ。」
「でしょうね、でも僕はあなたを放すつもりはありませんよ。さぁ、一緒に行きましょう。」








そう言ってあの人は自分をこの世界に無理矢理放り投げたのだ。薄気味悪いほど優しい笑顔を浮かべて。嘘吐き。最初から最後まであの人は嘘吐きだった。放すつもりはないなんて言って結局突き放した。一緒に行こうと言って置き去りにした。バカにしている。
キッと前を向く。先を進むディーノが体育館の扉を開けた。


「ディーノさん!」
「よォ、ツナ。遅くなったな。」
「終わっちまってから来ても意味ねーだろが、ディーノ。」
「そう言ってくれるなよ。それに今回はあるレディのお願いできたんだ。」
「お願い?」


リボーンが怪訝な顔をする。他の者も同じ様な顔だ。ニヤリと笑ってディーノは後ろにいるに紳士的な所作で手を差し出す。さぁ、復讐の始まりだ。珍しく口端を少し吊り上げて彼女はディーノの手に己のソレを乗せた。ミュールが床に響く。犬や千種の驚いた顔。


!」


一 人 ぼ っ ち の ロ ビ ン フ ッ ド