柔らかい草むらに寝転がっていると必ずソレは現れる。
さくり、さくりと草の感触を楽しむみたいに足音を鳴らすソレは自分に気付くと
眉を下げて笑った。


「また、喧嘩?」


それは彼女の口癖だ。(と思う)















嫌いじゃない
















「喧嘩じゃないし。」
「え、喧嘩じゃないの?」
「・・・いつも思うけどは俺の話聞いてる?」
「あー、うん。そこそこ。」


そこそこってどの程度だ。
何か言ってやりたかったけど面倒だからやめた。


「っつーかさ、螢惑はよく飽きないねぇ。」


自分の隣に腰を下ろしたが頬杖ついて笑う。
黒装束が風に少し揺れた。










「嫌いなら向き合わなければいいのに。」




それは多分、自分と辰怜のことを言っているんだと思う。
顔を合わせれば一日一回は必ず死合うから。
それには彼と自分が腹違いの兄弟である事を知っている。
まぁ、俺が言ったんだけど。


「だってウザイんだもん。」


あれをしろ、これはやったか、どうしてお前はいつもそう・・・
うんざりする。くどくど説教して。
壬生一族たるもの、が口癖のアイツは俺の嫌がることばかりしたがる。
俺はどうだっっていいよ。お前一人でやってなよ。


「それは辰怜様の優しさじゃないか。」
「そんな優しさいらない。ウザイ。」
「贅沢な奴。毎朝起こしに来てくれる親切な人、今時いないよ。」
「寝かせてくれた方が親切。」
「なーんでキミにはわかんないのかねぇ、辰怜様の優しさが。」
「うるさい。」
「うるさいかい?そりゃ失礼。」
「・・・もうどっか行ってよ。」


これ以上と喋っていると彼女を攻撃しそうだ。
それは嫌だ。なんとなく。


彼女は俺のたった一人の理解者だから。


「へいへい。」


下唇を突き出しては素直に腰を上げる。
辰怜やゆんゆんだったら捨て台詞でも吐くんだけどはそんな事はしない。
軽く笑って、お終い。


(なんだよ辰怜の事ばっか)


俺には何考えているかいまいち判らないのだ。(言えた義理じゃないけど)
風の如く現れて風の如く去っていく彼女はいつも飄々としているから
こっちの方があまりのあっけなさに動揺してしまう。




だって)






「・・・・だって」
「ん?」



振り向いたは不思議そうに俺を見つめて、でもやっぱり笑っている。
の笑った顔は大好き。
強い黒耀の瞳も気に入っている。
でも、
でも、
はどんなときでも笑っているから。
笑えない俺は動揺して、焦って、そんな自分に嫌になって
つい彼女にきつい事言っちゃって、また嫌になって、それでも。


やっぱりは笑って許すから。




(子ども扱いされている気分になるんだ)



それは俺の考え過ぎなんだけどね。
判ってはいるけど。
きっと、また彼女を傷つけてしまうんだ。















だって辰怜の事嫌いなくせに。」










言わなければ良かったと思った。
驚いた顔をした
その後、困った顔で笑った
なんとなくいたたまれない気持ちになる。





「んー、俺の場合はぁ」
困った顔のままは帽子を弄ぶ。



「嫌いなんじゃなくて苦手なんだよ。」
いまいち良くわからない。


「っていうか、ヤキモチかな。」
もっとわからない。









「・・・どうゆう意味?」
聞いたら彼女は簡単な事だよと言った。

































「俺は女だからあの方の跡を継ぐ事が出来なかった。
だからちょっと辰怜様が羨ましいんだ。」










ソレを聞いてやっぱり言わなければ良かったと思った。
は笑って言ったけどその声の調子はどこか寂しそうだった。