そ の店を覗いたのは偶然だった。 あまりにもおどろおどろしい出で立ちの店に最初は知らぬ振りをして通り過ぎようとした。しかし数々の花たちが飾られてあるのを見ては思わず足を止める。懐かしい花たち。太陽に照らされて満足気に咲いている。看板の文字こそ異国の言葉で読めないがそこは確かに花屋だった。 「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」 「・・・っいえ、別に、」 顔を真っ青にさせては首を振る。出てきたのは二メートル以上もある大男だった。左右の米神に角が生え、頭には花が咲いてある。顔は人間とは思えない(角が生えてる時点で人間じゃないだろう)強面だ。男はの態度を気にする素振りは無く 自由に見てってくださいねと笑顔のようなものを向けて(笑顔すら怖い)花の世話をしている。そう言われれば見ていかざるを得ない。もし逃げたらどこまででも追いかけてきそうだ。内心ビクビクしながらも店の中へ足を踏み入れた。 途端にの顔が輝く。中はいろいろな花が咲き乱れていた。夏に咲く花が多いがこの季節には咲かない冬の花までもが誇らしげに咲いている。感動を通り越してただただ周りを見回す彼女の様子にその男は どうかしましたかと問いかけてきた。我に返ってパッと下を向く。男の事はもう怖くない。はしゃいでしまった自分に恥ずかしくなっただけだ。 「あまりにも花があったのでびっくりしてしましました。す、すごいですね、あの花は育てるのが難しいのに。」 「あの花ですか。えぇ随分と苦労しましたよ。それにしても花に詳しいんですね。好きなんですか?」 「・・・・―――はい、母が花屋をしていたので・・・・・。」 問われた時脳裏に古い記憶が走った。銀髪の女性が手を振りながら優しく笑ってる姿。その後ろにはもう朧げになってしまった小さな花屋。喉が詰まる。どうにか零れた言葉に彼は そうですか、とだけ言った。一見そっけない言い方に見えるけど声音は穏やかでわざとそ知らぬ振りをしてくれたのがわかる。大輪の花をつける件の球根花を眺める。夏の花だというのに暑さに弱いその花は本当に育てるのが難しく特にの育ったあの地域ではすぐに枯れてしまった。母親はいつも残念な顔をして 成長したらね、とても綺麗なのよ と決まり文句となった言葉を口にしていた。いつかにも見せてあげると。結局はその花を本でしか見る事が出来ずに今日まで来た。柔らかい色をした花弁が大きく広がってを見つめる。すると男がその花の鉢を棚から下ろした。店の外に出すのかもしれない。少し残念に思っていると目の前にその鉢が突き出された。見上げれば男が少々戸惑ったような照れているような表情で よかったら貰って下さいと言って来た。 「こんなに熱心に僕の花を見てくださった人はいないのです。だからもし良ければ貰って下さい。きっとあなたなら大切にしてくれるでしょう。」 突き出されたソレを数秒見ていたは苦笑して首を振る。あからさまに男がしゅんとした。その姿に彼女は慌てて 私の住んでいる所では枯れてしまうんですと話し、代わりにまた見に来ても良いですかと問うと男はぱっと目を輝かせ相変わらずの怖い笑顔で いつでも来て下さいと笑う。下ろした鉢をさり気無くまた元の場所に戻す姿は可愛らしい。なんだか最初に見たときよりも随分と優しく可愛らしい人だとは微笑みながら思った。 |
思 い 出 を 零 す 花