日と言うのに行ったのはコレが初めてだ。
迷子になると危ねぇからと銀髪の男に手を引かれ、その横で眼鏡の青年と桃色の髪をした少女が輪投げをやっている。もやらないかと言われたが見ているだけで楽しいので遠慮しておいた。銀時も面倒臭いのかお前達だけで楽しんで来いと二人に言いの手を引きながら少し離れた所に陣取る。
体を触れられるのは嫌いだ。触れられた部分から相手のドロドロとした心が流れ込んでしまうから。が、“ここ”で知り合った人たちに触れられるのは嫌いではない。特に手を引く目の前の男に対してはランチアと同じ安定感を感じていた。言葉にすれば水面。男の雰囲気はまさにソレだった。静まり返った水面の下に辛い過去をもちながらその憎悪は決して水面の上には浮かび上がらず、一定を保っている。だからといって常に冷静と言うわけでもないようで波紋が浮かんだり時には荒れる。正直な男だ。そして誠実な男。だから彼の周りには素敵な人が集まるのだろう。
輪投げは結構な繁盛で騒がしい。流石江戸一番の祭。いつもは子供たちが遊ぶだけの広場が夜店や人でごった返していた。のいる世界でも祭りはあるがこんなに盛り上がりはしないだろうし、盛り上がっていたとしても祭に一回も行った事のない彼女にとっては基準すらわからない。神楽が最後に投げた投げ輪が景品の棒にかかる。わっと周りが湧いた。すると出るぞ、と銀時が耳打ちをしては彼の後について輪投げ屋の傍から離れる。少し経つと満足気な神楽とげっそりした顔の新八が出てきた。神楽の手には酢昆布が沢山入った袋が握られている。


「聞いてくださいよ〜。神楽ちゃん、トイレットペーパー12ロールと酢昆布で酢昆布選んだんですよ?!うちにもうトイレットペーパーないの知ってるくせに!!」
「んなっ?!何やってんだこの酢昆布娘!!今日から何で拭くんだよ?!」
「男が一度終わった事をぐずぐず言うんじゃねーよこのマダオが。それにケツ拭く紙より酢昆布の方が大事アル。」


トイレットペーパーなんて次ぎ行く店で奪えばいいネ。神楽のしれっとした物言いに新八も銀時もこれ以上言う気にもなれないのかうな垂れてしまった。が声を上げて笑う。親子みたいだ。そう思うと可笑しくなった。今まで大人しくて無口な彼女が突然笑い出したものだから三人とも目を丸くしている。普段はのらりくらりしているのに一番大切なものをちゃんと知っている裏も表もない人たち。弱い事を弱いと言える強い人たち。久しぶりに人を愛しく思う。


「次は・・・クジ屋に行こう。クジなら私は得意だから。」


だからここで少しだけ力を使うのを骸には勘弁してもらおう。本当に少しだけだから。クジに書いてある文字を透視するだけだから。


江 戸 縁 日 を 楽 し む