あれ?おかしいなと冷汗をたらしながらアキは首を傾げる。隣にはシンプルなベッド。下にはテーブルと問題集とカルピスの入ったグラス。そして目の前には雲雀恭弥と名乗る少年。夏休みの終盤に近づいてきている今日この頃、特別講習も終わった彼女は近所の知り合いに「中二の勉強を見てもらえないか」と頼まれた。夏休みだけで良いというし、教えるのに数学は入っていない。おまけに報酬も弾むと聞けばやらないわけがない。二つ返事で承諾し、教えてからもう二週間も経つ。生徒となった雲雀少年はたいそう偉そうで恐ろしい人間だったが日頃(某数学教師によって)鍛えているので何とかなっている。ただトンファーを振り回すのはやめて欲しい。 「。まだ?」 「ううーん、」 あと呼び捨てもやめて欲しい。一応年上なのだし。しかしそんな事をボク以外は全て愚民と信じて疑わない彼に言えるはずもなく、この二週間では彼を恭弥君と呼び彼はをと呼ぶようになっていた。おかしい。いや、自分だけが敬称と言うのもそうだが彼の部屋で英語を教えていた自分がいつの間にか彼に数学を教えてもらっている立場にいるのが一番おかしい。しかも彼が高二の数学がわかるのもおかしい。彼は優雅に本を読んでいる。おかしい。本来そんな優雅にしているのは私のはず。汗水たらして勉強している生徒に優越感を感じながら過ごすはずが自分が汗水たらしてる。お か し い。 「恭弥君。」 「何?出来たの?」 「・・・・いぇ、全然。」 「・・・・・・・キミ本当に高校生?もう一度中学からやり直せば?」 「(ガーン)ひ、ひどい・・・・。」 「まったくどっちが教師なんだか・・・。ほら、あんまり呆けてると噛み殺すよ。」 「ぎゃひぃっ」 ブンと風を切ってトンファーがのデコに当たる。加減はされてるものの痛いものは痛い。デコを押さえ半泣きになりながら彼女はシャープペンを握りなおした。学校から開放されたと思ったら今度はバイト先である。目から流れる汗がキラリと光った。 「じゃぁ今日はここまでね。」 「ありがとうございました・・・・。」 ペコリとお辞儀するのは。立場がまるっきり逆である。勉強中手をつけられなかったカルピスにやっと口をつける。冷たく甘い味に顔が緩んだ。女中さん(雲雀家は日本家屋でとても広いのだ)が持ってきてくれるカルピスは最後に飲む事を計算しているのか氷が全部解けても丁度いい味になっている。ソレに感心しながらもカルピスを持ってきてくれた女中さんが明らかに小さな子供を見るような目で運んできたのはいただけない。最初に来た時に出された大好物のカルピスにとても喜んでしまったのが仇となって、以来自分が来ればカルピスが出されるようになり女中の間で自分は恭弥さんの家庭教師からカルピス好きの女の子に変換されてしまったようだ。悲しい。 この一夏で自分は年上の尊厳と言うものをなくしたような気がするが夏休みの宿題が終わるのに越した事はないので忘れる事にした。もうすぐ再放送で「アンパンマン」始まる。夏休みスペシャルなので二本立てだ。楽しみだなーとうきうきしながらは雲雀家を後にした。 |
カ ル ピ ス は 少 し 濃 い 目 に