角 都の知り合いと訊いて想像してたのは換金所で会ったようなおやじだ。金にがめつく下卑た顔をしてるに違いない。しかし俺の想像に反して家から出てきたのは若い女性だ。赤銅の髪を緩く結い上げてにっこりと微笑む様はどんなに罷り間違ったとしても角都には縁のないような綺麗な女性だった。俺はあまりの衝撃に開いた口が塞がらなくて、角都はそんな俺を訝しげに一瞥して家の中に入っていく。取り残された状態となった俺はそれでも頭が付いていかず唖然とバカみたいに玄関に立ち尽くしていたわけなんだが、その人は微笑んだ顔を崩す事無く「汚い家やけど遠慮せんであがって」と優しい声をかけてくれたのだ!こんな見ず知らずの俺に!! 天にも昇る気持ちで家の中に入り、角都が座っている縁側に同じく座ると「珍しく大人しいな」と声をかけられたので「テメーはさっきの人とどういう関係なんだよ!」と問い詰めてやった。だっておかしい。あんな愛想が良くて清楚な美人が何でゴツい角都と知り合いなんだ。角都は「には前に世話になっただけだ。お前の考えているような関係ではない」と言っていたが信用ならない。世話って何だ。イライラして「ずりィ!なんで角都ばっかあんな若くて美人な人に世話してもらったんだよ!!」と若干自分でもわけのわからないことを叫ぶと後ろでころころと鈴を転がすような笑い声が聞こえた。瞬時に振り向くとソコにはお盆に麦茶とガラスの鉢を乗せた件の美人が笑いながら立っていた。 「ふふ、おおきに。飛段くんは女性を褒めるのがうまいんやねぇ。」 「・・・・・・・・・・・・・。(いや褒めたんじゃなくて事実で・・・・ってこんな事いえるか!!)」 「あらら、嫌われたんかな?」 「道端で変なのでも食べたんだろう。気にするな。」 「それじゃぁ、具合悪ぅなったらいつでもゆうてな?薬だけは沢山あるから。」 柔らかく笑ってさんは俺と角都の前に麦茶を置く。謝罪とかお礼とか言いたい事は沢山あるのに何て言っていいかわからずそのまま無言で麦茶を呷る。すると彼女が持っているお盆に乗せてあったガラスの鉢の中に金魚が泳いでいるのに気が付いた。悠々と泳ぐその姿を見るのは久しぶりでつい凝視していたのだろう。「角都さんが持ってきてくれたんよ。金魚好き?」とさんが話しかけてきた。そういえばここに来る途中角都が何か買っていた。まさかソレがさんへのお土産だったとは!!いつもは金の無駄だとかいって買わないくせに!知らぬ振りして麦茶を飲んでいる角都にさっきを送りながら思い切って「は金魚がすきなのか」と訊いた所彼女はそれはそれは嬉しそうに頷いて「赤いベベ着て泳いでるみたいやろ?子供みたいでかわええ」とふんわり笑う。「お前の方がかわいいぜ!」と言ってやりたい気分になったが俺はそんなキャラでもないのでぐっと堪え、次の夏来るときは角都が持ってきた金魚よりも大きくて綺麗な金魚を買って来ようとジャシン教に誓った。 |
夏 に 住 む 朱 色 の 魚