女は一つの風そのものだった。




ボグワーツの中庭。その隅にある木陰で僕は彼らをじっと見ていた。正しく言えば彼女を。茶色がかった黒い髪に鉱物のような漆黒の瞳。遠い島国から来たらしい。今日一日ホグワーツで過ごしてそれからマグルの世界へと帰るとダンブルドアは言っていた。なんでも彼女の両親がホグワーツの卒業生でダンブルドアとは先輩後輩の関係にあるとか。彼女は両親に連れられてここに来たのだ。




たんたん と とん ぽーん とん




白と黒で彩られたボールを蹴りながら彼女はジェームズたちと遊んでいる。ピーターが彼女の横で歓声を上げていた。くるくると足元で回したり、膝でとんとんと地面にボールを落とさぬように蹴ったり。魔法を使っているかのように(正真正銘彼女はマグルだ)ボールが彼女から離れない。シリウスがそのボールを取ろうと頑張るが彼女は笑ってそれを避ける。言葉は通じないはずなのに彼らはまるでずっと前から友達であったかのように遊んでいる。




とんとん た と たん とたん




不意に目が合う。黒い瞳は活き活きと輝いていて綺麗だ。風に流れた髪。口元が弧を描いた。




とととん た とん ぽーーーーーーん






ゆっくりとアーチ型の放物線をボールが大きく描く。そしてそのまま僕の手の中に納まった。彼女が駆けて来る。風の様だと思った。








そんなとこいないで おいでよ。






聞き慣れない言葉で彼女は僕に笑いかけた。なんて言ったかは言葉ではわからなかった。でもその表情で何が言いたいのかわかる。
差し伸べる掌に僕は笑って今まで読んでいた本を閉じた。

若 葉 を 駆 け 抜 け る