「ほ たる君、ほたる君。」 そう言っては砕いた硝子を散りばめた様な夜空を指差して振り向く。その手は白くて俺が少し捻れば簡単に折れてしまうような、そんな危なげな細さだった。しかし、だからと言って儚げで弱い人間かと問われれば俺は首を振ると思う。は強い。体がじゃなくて心が、強いのだ。 「あれはね、北斗七星って言うんよ。」 「へぇ。」 「それでアレは白鳥座。アレはシリウス。」 「は星が好きなの?」 丁寧にゆっくりと言葉を紡いでいたは俺の言葉にきょとんとした顔をした。それに驚いて俺も呆けてしまう。だってはとても物知りだし、俺に教えてくれるその声は嬉しそうな色音をしている。好きなのかと思った。俺の驚いた顔にはにっこりと笑う。傲慢な笑みでも馬鹿にした笑みでもない落ち着く笑みだ。 「私のね、友達が好きやの。」 「どもだち・・・・。」 「今ねあの夜空のもっともっと遠くにおるんよ。そぉゆう仕事をしてん。」 聞くところによるとその人はこの地球を飛び出して宇宙の漁師になったと言う。どういう意味かよくわからなかったけど、が嬉しそうに話すから俺も嬉しくてうんうんと妙に多く相槌を打った。 「宇宙は真っ暗なんやて。星はあるけどそれでも真っ暗やねんて。でも不思議と地球だけは見つけられるって言ってたんよ。とても綺麗やから。」 俺はこの世界をずっと高いところから見たことがない。もそうだろうけど。だから、どんなに綺麗かはわからない。それが何故か悔しい気がした。そしてソレを知っててを喜ばす事が出来るの友達が恨めしくもあった。 「あ、アレ、アレ!」 さっき差した場所から少しずれてが指を差す。そこには赤く輝く星があった。 「アレは螢惑って言うんよ。」 「けい、こく?」 「ほたる君と同じ名前や。」 は小さく笑う。俺は茫然とその星を眺めていた。ゆんゆんが名付けてくれた名前がこの星だったとは知らなかった。本当に赤い。 「私は近くで見たことがなんやけど、きっと宇宙の中でも綺麗に輝いているんやね。」 「綺麗、かな。」 「綺麗やで。思わん?あの星を頼りに真っ暗な宇宙を旅する人もおるんやろなぁ。」 一つの灯なんだろうとは言った。道標だと。 星明りにぼんやりと見えるの顔が穏やかに笑う。俺に向けられた俺だけの灯だ。 「ほたる君の名前はどっちも道標やね。“螢惑”も“ほたる”も。空と地上を照らしているんね。」 そしてきっとほたる君も。 |
灯 り を ど う ぞ