人の髪は茶色い。
染めてるわけでもないのに茶色い。結人のお母さんの遺伝らしい。
太陽がアイツの髪に当たるときらきらと輝いてとても、羨ましい色になる。






「結人の髪って良いよね。」


と言うと向い側に座っている郭君は驚いた顔をした。暖房の入ったファミレス店内は暖かい。郭君はそのままじっと私と見て「何で?」と訊いてくる。私と郭君は幼馴染の友達と言う関係だ。結人の友達の郭君。結人の幼馴染の私。普通こう言うのって気まずいはずだけどちょくちょく会うから全然気にならない。(私はね)それに郭君は一見取っ付き難い雰囲気があるけど意外と庶民的で話しやすいのだ。


「本人は嫌らしいよ。すぐ目をつけられるって。」


苦笑を浮かべる郭君の髪の色は黒い。艶のあるしっとりした髪質だ。私の髪は黒いけどしっとりも艶も無い。むしろぱさぱさしている。


「ああ、言ってたね。でも良い色だと思うけどなぁ。」
「どこらへんが?」
「郭君は嫌いなの?」
「何で?」
「さっきから質問ばかりしてるよ。」
「違うよ。ただ、あえて好きだって言うさんに驚いたから。」


郭君はまた苦笑だ。切れ長の瞳が困ったように細まる。実は私は郭君の目も好きだったりする。真田君の吊った目も好きだ。目付きが悪いと言われているらしいが土方先生や高杉先生よりずっと可愛いと思う。アレはもう圏外だ。マフィアで充分やっていけるような目付きだ。いや、基準はないんだけど。溶けそうなパフェを口に運びながら私は結人の髪を思い出す。ボールを追いかけて走る結人はいつもとても楽しそうに笑っている。そしてその度揺れる茶色い髪は赤味がかって綺麗だ。ソコまで思って私は自分がにやけていたのに気付いて慌てて顔を引き締める。でも郭君にはばっちり見られていたようで、しようがないから困ったように笑った。郭君は不思議そうに見ている。


「あのね、結人の髪って茶色いじゃん。」
「うん。」
「太陽が当たるとその色が透けてキラキラするの。それ、良いなぁって思うんだよね。」


今度こそ郭君は笑った。困った顔じゃなくて微笑むように。もうすぐ一時半だ。二時から高杉先生の講習がある。今日も目付きが悪くて俺様なんだろう。


「そうだね。俺も結人の髪、好きだよ。」



欽 羨 の 髪