「
こ
れでよし、と。」 「っでぇ。何で傷口叩くんだよ?!怪我してんだぞぉ!!!」 「そんなのスー君が勝手にしたんやからしょうのない事やん。」 薬箱を元に戻して軽く叩かれた箇所の痛みに耐えているスクアーロにはニコリを微笑んだ。強制されるわけではないが優しさを包んだ様で何となく有無を言わせない笑み。うっと、言葉に詰まって彼は押し黙る。その様子をがいっそう優しい笑みで迎え入れるから怒りも何も吹っ飛んでしまい後に残ったのは呆れだけだ。と、向いの部屋の戸が開く。中からはこの世界の着物を着た同僚の姿。 「、ー。出来た。」 「あら!ベル君、よう似合ぅてるよ。色男は何着ても色男やねぇ。」 「あったり前じゃん、俺王子だしィ〜♪」 「テメー何勝手に着替えてんだぁ゛?!!仕事終わってねーんだぞぉ?!!」 「え〜、何かめんどい。やりたいならスクアーロがやってこいよ。俺ここで待ってる。」 「んだとぉ?!!」 「まぁまぁ、えーやないの。急ぐ仕事じゃないんやろ?スー君怪我してるんし今日はゆっくりしていきぃ。」 さぁお茶入ったで。そんな寒いとこ居らんで炬燵入りーよ。 柔らかい声に振り向けばがお茶を入れ終わって炬燵に入ろうとしている。炬燵の上には湯気が立ち上る湯のみ。お菓子もある。ベルは勿論の事、腹ペコで仕事にも失敗し踏んだり蹴ったりだったスクアーロに抗う事など出来るはずもない。結局、スクアーロはベルと共にご飯を御馳走になり、血で汚れた服を洗濯までして貰って至れり尽くせりな時間を味わった。 「スクアーロ、そこの戸閉めて。」 「自分で閉めやがれ。」 「えー、炬燵から出たくない。」 「う゛お゛ぉい!つーか、少しはの手伝いをしろよテメーは。」 「んー、の手伝いはしてあげたいけど・・・・炬燵の魔力ってスゲー。」 「えぇよ別に。そんなたいした事はしてへんもの。スー君も休んでてえぇんよ?」 「世話になってんだ。こんくらいする。」 「ふふ、おーきになぁ。あ、紅白どっちが勝った?」 「赤ー。も見れば良かったのに。台所で何やってんの?」 肩まですっぽり入ったまま見上げるとはにっこりと笑ってお盆を炬燵の上に置いた。小さな三つの碗には黒い液体、同じ分の小皿には薬味が入っている。ベルは首を傾げるがその後ろにいるスクアーロが持つお盆を見てその正体がやっとわかった。 「蕎麦?」 「そう、年越し蕎麦やでー。」 「なにそれ。」 「日本は十二月の三十一日に縁起かついで蕎麦食べるんよ。細く長く達者に暮らせるようにって。」 優しく微笑んでは蕎麦とツユを置いていく。赤銅の髪がさらりと揺れて彼女を彩った。その様子をベルは炬燵の机に頬杖を付いて眺める。自分の周りにはこんなに穏やかな女性はいない。優しい女性はいくらでもいたが自分を丸ごとすっぽり包む様な暖かさをくれる人はいなかった。ごぉん、と何処かの鐘の音が聞こえる。ごぉん、ごぉん。その音に便乗して また来てもいい?と問うと穏やかなその人は じゃぁ、ベル君の好きなモノ用意して待っとる、と笑った。 |
祓 う 鐘 に 便 乗