ほぅ、と息が漏れる。 その色は白く、上に昇り空に届く前に消えていった。ソレをぼんやりと眺めながら我愛羅は隣で杯を暖めているの話に耳を傾ける。 この案内人が砂隠れの里に住み着いたのは秋も半ばに迫った頃だ。いや、住み着いたとは語弊が生じる。商人の行き帰りの護衛として約半期ほど滞在しているのだ。しかし持ち前の物腰の柔らかさから里の人々とも打ち解け、今では昔から住んでいるような錯覚に陥る者も少なくない。しかも彼女はとても話し上手で里の者が見たこともない話を色々してくれるので子供は勿論の事、大人にも大人気だ。 「次は何の話を致しましょうか?」 暖かい声に顔を横に移すとがニコリを微笑んでいた。そんな笑顔を浮かべてくれる人などこの里には居らず、いつもの事ながら少し驚いた。誰もが恐れるのに彼女は我愛羅を恐がらない。最初面白いと噂の話が聞きたくて聞きに言った時、皆は逃げて行ったのにその人だけは今のようににっこり微笑んでくれた。そして自分の手を引いて里の者でも誰も知らないだろう池の畔で我愛羅が見たことのない海の話、他の国の話をしてくれた。 「の話なら何でもいいよ。」 「んー、それじゃぁ俺の故郷の話でもいいですか?」 「勿論!」 「ふふ、ありがとう御座います。それでは、・・・・此処よりずっとずっと遠い所に俺の国はあります。四季の綺麗な所で、今だと雪が我愛羅様の腰くらいまで降り積もっているでしょうね。」 それから少しの間の声が畔に響き、我愛羅は頬を紅潮させてまだ見ぬ情景に心を躍らせた。そして同時にいろんな話の出来るを羨ましく思えた。の話は魅了的な話ばかりだ。こんな風に話せたら自分にも友達が出来るだろうに。里の者の怯えた目。思い出すだけで体の心が凍る。自分に優しいのは夜叉丸とだけだ。ぎゅっとぬいぐるみを抱く手に力を込める。 「我愛羅様?」 「・・・・僕はが羨ましいよ。僕もみたいになれたら、」 「・・・・・・・・我愛羅様には我愛羅様の良さがありますよ。」 「僕には何もないよ。砂の所為で人を傷付けちゃうから皆逃げる。ソレが恐くて、一人になるのが嫌で、傷付けるってわかってるのに砂を使って引きとめようとしちゃう・・・。直そうって思ってるのに、」 段々と俯いていく頭に何かが触れる。 掌だ。の。驚いて顔を上げると切なそうに笑っている彼女と目が合った。 「俺だって人を傷付けると知っているのに傷付けてしまう事はありますよ。我愛羅様だけじゃないんです。きっと皆も同じく思っているんじゃないでしょうか。ただ気付かないだけで。・・・だから気付いて直そうとしている我愛羅様はすごいですよ。お優しい心を持っているのは我愛羅様の良さですね。」 柔らかい声に体を丸ごと包まれた気がした。不意に彼女の手が我愛羅の手を取って、持っていた杯を逆さまにする。ころりと言う音と共に冷たさを感じて顔を上げるとはにっこりと笑って逆さまにしていた杯をゆっくりと引き上げる。我愛羅の掌に残ったのは片手ほどの氷。中には花が一輪嵌め込まれている。太陽の光に照らされてソレはまるで何かの宝石のように輝いていた。 「きれい、」 「昔、好きな花を入れて遊びました。もし良ければ貰ってください。」 「いいの?」 「えぇ。我愛羅様、冬は人の心もかじかみます。でも覚えていてください。きっと春になれば楽しい事がありますよ。」 「・・・・でも、春になったらが折角作ったこの氷が解けちゃうよ。」 悲しい顔でもしていたのだろう。はクスリと笑うと愛しそうに我愛羅の頭を撫でる。そして春の様な声音で囁いた。 「いいんです。この氷が解けて花だけが残ればもうすぐ春の訪れを感じる事が出来ましょう。 俺はあなたに春の訪れを知らせる事が出来ればそれでいいのです。」 |
花 氷 が と け る 頃