そぼそと何か話す声に目が覚めた。
辺りを見ればまだ薄暗く夜明けにもなっていない。傍にあった時計を見れば五時を少し回った所だった。は眠い目を擦りながら障子を少しだけ開けて外を眺める。やはり外も暗く、降り積もった雪だけがぼんやりと白かった。その白さにはほぅっと息を吐く。こんなに雪が降り積もっているのは見た事が無い。二十三年ぶりの大雪だと昨夜近藤が笑っていたがソレでもこんなに降るとは思わなかった。彼女のいたアジトは少ししか降らない所であったし、生まれた国は乾燥ばかりで雪は降らない。元々雪の降る国はが知っている中で木の葉隠れの里くらいだ。しかしその里でも精々土を薄っすらと覆うくらいにしか降らずその里の近くにあるアジトは半ば土を湿らす程度だ。
此処にきてもう二週間。慣れてもいい頃のはずなのに未だに彼女は雪に感動する。不意にの視界を黒い隊服が横切った。腰に提げた刀がカチャカチャ鳴っている。黒く短い髪。すらりとした四肢。煙草をくわえたその横顔は呆れ顔だ。


「・・・・近藤さん、アンタ何やってんだ。」
「おうトシ!見ろよ俺の自信作、雪達磨さんだ。」
「まんまじゃねーか。」
「近藤さーん!」
「ん、総悟。」
「見てくだせェ。俺の雪うさぎデラックス。」
「おーすげーなぁ。流石総悟だぁ。」
「でかっ!!」


沖田の横にはおよそ五メートルを軽く越える雪うさぎがそびえ立つようにして屯所を眺めている。近藤は感心したように笑っているがこれが溶けたり等したら間違いなく屯所を飲み込むだろう。土方の突っ込みに一層騒がしくなった外。軽い足音が廊下に響く。からは見えないがこの足音は山崎だ。小声で講義の声が聞こえる。


「ちょっと何騒いでるんですか。ちゃんが起きちゃいますよ?!」
「それは土方さんに言ってくれィ。あん人が原因でさァ。」
「総悟ぉぉぉ!!!元を辿ればテメーがそんな馬鹿でかいうさぎ作っからだろォ!!雪崩が起きたらどーすんだ!」
「冒険心のないお人だねィ。それとも自分が不器用で作れない事への嫉妬ですかィ?」
「上等だテメェェ!!俺だってなぁヤるときゃぁヤるんだよ!!」
「えーっと、まだ夜明け前なんで騒がないでくださいね。って言うか、ホント何してんですか?」


大の大人が三人で雪遊びしている光景は些か不思議だ。しかも夜も明けていない時間に。熱心に雪玉を転がすミイラ取りのミイラ(土方)を半眼で眺めながら山崎はさっきから二人のやり取りを菩薩の眼差しで見ている近藤に訊く。


がさ、こんなに雪を見た事が無いって昨日言ってたから少しばかし驚かしてやろうと思ってなぁ。」
「ソレは良いですけど・・・・驚くでしょうね。(いろんな意味で)」
「そうだろそうだろ。そうだ、が起きたら真選組内で雪合戦でもしよーや。はまだ小さいのに中々ヤルからなぁ。対抗戦でも面白いだろなー。」


ニコニコと笑う彼に何を言っても無駄だろうと半ば呆れながらもこの人らしいと山崎は笑う。屯所の庭には雪だるまと雪うさぎの他に色々な物が作られていて賑やかだ。隅を見れば多分近藤だろう。荒らされていない雪の平面に人型の跡が付いている。どっちが子供なんだか。苦笑を禁じえない山崎の姿に近藤は「お前も作ってみたらどうだ」と薦める。それに苦笑して「後でちゃんと一緒に作るから今はいいです」と首を振った。


それまでの事を耳で聞きながらは障子を閉めて布団に潜り込む。冷たくなった手足をまだ暖かい布団で暖めながら緩む口元が抑えきれなくてひっそり笑った。朝になれば山崎が一緒に何か作ってくれる。皆で雪合戦をしてくれる。嬉しい。高鳴る鼓動に心地良さを感じて彼女は目を閉じた。


もう一眠りしたら土方の雪作品が見れるだろう。
あの人は見かけによらず不器用だから何が出来るか楽しみだ。

朝 を 待 っ て い る