ま るで鉄板の上の肉になった気分だ。 ジリジリと肌を焼かれては流れた汗を拭う。今日の最高気温は三十二度だとか。湿気を含んだ風が麦わら帽子を揺らした。 こっちの夏は湿気が多すぎんだ。 壊れかけた扇風機を足で付けながら隻眼の男が言っていたのを思い出す。が生まれた直前に日本に来たという彼はそれまでイタリアに住んでいたらしい。彼だけではなく彼女の両親や仲間も。彼等の顔を一通り思い浮かべながら両腕に抱えていた向日葵を抱え直す。天を仰ぎ見る花は見回りが終わった後、雲雀から貰ったものだ。ついでに校長だか事務員のおじさんのだかの麦藁帽子ももらった。彼にしては倒れないようにと気を遣ったつもりなのだろうが出来れば見回りをする前に欲しかった。再び溜め息が零れる。 一瞬、強い風が吹きぬけた。あまりにも強くて帽子が飛ぶ。呆気に取られながらもは帽子から目を放さずに行方を追う。ふらふらと不安定に落ちていった帽子にほっとして、その先にある誰かの靴にぎょっとした。が帽子から目を放さず、かと言って動きもしないでいると白いしなやかな手が帽子を拾った。帽子が持ち上げられると同じように彼女の視線も上がる。目の前に立っていたのは自分より年上である青年だった。黒く少し猫っ毛の髪に白い肌。あぁ雲雀に似ている。しかし彼の赤い瞳とニコリと笑った顔を見てから骸にも似ていると思った。 「君の?」 日本語ではない。なのになんて言っているのかわかった。それには異様さを感じたが相手の言葉がわからないよりは良いので別段気にもしないで頷く。相手はクスクスと笑った。おかしな人だ、と。心が読めるのだろうか。そう考えてもやはりは気にしない。どっちでも良かった。日差しに頭がやられたのかもしれない。相手は微笑んでいる。 「あなた、骸さんに似てますね。雲雀さんにも似ていると思いましたがやっぱり骸さんに似てます。」 「へぇ、どんなところが?」 「目が赤い所。骸さんはオッドアイなんですがあの人と同じようにあなたの目は綺麗ですね。」 「そう言われたのは君を入れて二人だけだなぁ。」 そう言って彼は苦笑した。しかしの突然の話に困ったのではなく綺麗だと言われた事に困ったようだ。自分も大概おかしいが彼も十分変な人だと思う。そう考えると急に目の前の人に親しみが持てた。汗が玉のように吹き出て首筋を流れる。太陽はまだ高い。いい加減頭もおかしくなってきた。は抱えている向日葵を二、三本抜き取って はい、と彼に渡した。彼は笑んだまま受け取る。しかしその目は疑問符を彼女に投げかけている。 「私はこれから骸さんにこの花を持って行こうと思っていたところです。本当はもっと綺麗な花の方があの人には似合うのかもしれませんが季節をもっと感じて欲しいのでこの花をもって行く事にしました。丁度学校の中庭の掃除で刈り取ると言うので少し分けてもらおうとしたのですが全部押し付けられてしまいました。」 その場面を思い出しては困ったように笑う。 「それにあの人は日向を歩く事のなかった人なんです。だからこれからはもっと明るいところを歩いて欲しい。向日葵って太陽って言う意味なんですよ。綺麗な花はいくらでもありますがその名がついた花は一つしかありません。あなたは本当に骸さんに似ています。赤い目もその笑い方も血を纏わせている所も。」 最後の言葉に彼は目を見開いたがの悪戯っぽい顔に苦笑した。それは何の感情もなく人を殺す人間とは思えぬほどひどく優しい笑顔だ。 |
日 輪 草 が 咲 く 腕